出版物の紹介:『プラスチック汚染とは何か』(枝廣淳子著)
『プラスチック汚染とは何か』(枝廣淳子著、岩波書店刊 620円+税)
プラスチックという物質からプラスチックごみ問題までを解説した、87ページの小冊子である。自然科学の研究者やサイエンスライターが書く類書と違い、プラスチック汚染問題への対応と使い捨てプラスチックの規制、抑制の取り組みなどに多くのページを割いている。
たとえば、2030年までにすべてのプラスチックの再利用や回収するための数値目標を含めた内容の「G7海洋プラスチック憲章」(2018年)を取り上げている。憲章は、単なる環境政策ではなく、イノベーションを含む産業政策にかかわるものになっていると説明する。その内容を具現化したEUの取り組み、世界各国で行われている使い捨てプラスチック規制、さらに欧米のNPOが実施する廃プラスチックの河川や海洋からの回収・除去といった先進的な活動の具体例を紹介する。
プラスチックごみを自然界から回収することは大事なことだが、ごみの発生源を断つ取り組みがもっとも重要という。その取り組みを行うためには次の視点が必要だとする。(1)供給源の問題か、吸収源の問題か(2)さまざまな環境・社会問題とのつながり(3)ニーズ達成プロセスに働きかける(4)取り組みの主体--政府か、事業者か、生活者か―である。
(1)については、地球は資源の「供給源」と廃棄物の「吸収源」の両面があり、どちらの視点で考えるかを峻別しないと議論がかみ合わず、目的が不明確になるという。(2)の必要性は、プラスチック問題やその対策がほかの問題にどのようにつながっているのかを考え、手を打っていかないと「予期せぬ問題」が起きる可能性があるためだからとする。たとえば、バイオプラスチックを大量に生産・使用するようになれば、「生態系や生物多様性の問題」を引き起こす可能性があると指摘する。(3)については、使い捨てプラスチック製品を使うのは、ニーズがあるからであり、そのニーズごとの具体的できめ細やかな対応策が必要であると記す。(4)については、主体によってできることが違い、政府は使用禁止や規制、事業者は減量化・リサイクルの推進、その手法や代替素材の技術開発が大きな役割であり、一方、市民はライフスタイルを変え、プラスチックの利用を抑制し、政府や事業者に規制や製品の改善を求めていくことだとしている。
ごみ問題は「環境問題」という一面的なとらえ方をしている日本に対し、欧州では「産業政策」の一環であるという考えを導入しており、使用済み製品の回収、リサイクル、廃棄にかかる生産者の責任を明確にするとともに、環境配慮型の製品について、デザイン段階での配慮へのインセンティブを設ける「循環型経済」を目指すなどの大胆な取り組みの推進を求めている。
(文責 三島勇)