Columns & Reportsコラム・レポート

2020.07.28

米ジョージア大学のジェナ・ジャンベック教授がオンラインレクチャーで海洋プラスチック問題を語る(2020/7/22開催)

※オンラインレクチャーは以下のサイトで見ることができる。
米国大使館・領事館共催 オンラインレクチャー:「プラスチックごみにみる環境問題とSTEM(科学・技術・工学・数学)教育の重要性」(通訳による日本語)
https://www.youtube.com/watch?v=MSbRylsGdmo&feature=youtu.be

プラスチックごみ削減は水筒,エコバッグから始めよう

Dr_Jenna_Jambeck.png 海洋プラスチック問題を長年研究している米ジョージア大学教授のジェナ・ジャンベック博士<写真,米国大使館提供>が2020年7月22日,米国大使館・領事館共催オンラインレクチャーで,プラスチックごみ問題などについて講演した。「はじめから『ゼロ・プラスチック』は難しい。その困難さに圧倒されて,やめたいと思うようになってしまう。エコバックや水筒から始め,少しずつステップアップした方がいい」と,プラスチック削減は無理のない行動から始めるべきだと強調した。
 レクチャーで,ジャンベックさんはまず,プラスチックは2017年にシロナガスクジラ約8000万頭分にあたる約83億トンが生産され,うち約63億トンが廃棄物となり,さらにその中から5〜13億トンが主に川を経由して海に流入したと指摘した。
 博士は陸地から海洋に流れ出るプラスチックの現状を調べる一環として,2019年,多くの女性研究者らとインドとバングラディッシュを流れるガンジス川を調査した。バングラディッシュにある河口からヒマラヤ山脈の水源までの10地点で,ドローンやAIも使い,集積・投棄場所の管理について量的データを集めた。また,ごみが,どう漏出したか,どう解決していけばいいのか,などについて地元の人たちからインタビューも行なったと語った。定量的調査だけでなく定性的調査も行ったようだ。

「ゼロ・ゴール」を目指すプラスチック削減方法

 次に,プラスチック汚染を抑制するための戦略的介入の枠組みについて説明した(図参照)。
  <1>生産低減〜産業主導や需要低減
  <2>革新的な素材,生産デザイン〜グリーン・エンジニアリング,循環型経済
  <3>廃棄物発生の低減〜再利用可能な用品,シェアリング(共有経済)
  <4>世界的な廃棄物管理の改良〜状況に応じた固形廃棄物管理の社会基盤
  <5>ごみ回収の改良〜ごみ回収と清掃
  <6>海への流入濃度の削減(ゼロ・ゴール)
戦略的階級枠組みフロー_s.png <1>については,消費者の選択に関わっている。プラスチックの需要を減らすため,再使用できる水筒やエコバッグ,再使用可能なストロー,再使用できるピクニック用品を使うほか,より少ないプラスチック包装を使った商品や非マイクロビーズ製品を選ぶことを求めたいとした。また,政府や企業に消費者の選択肢を広げるように求めるべきであるとも主張した。
 <1>と<3>については,たとえば,水筒に入れる水を供給する設備を設ければ,人々の需要に合わせながらも廃棄物を減らすことが可能であると指摘した。<2>について,ジョージア大学の新素材学部で先進的な素材開発を進めていることを紹介したうえで,生産者には製品の最終段階まで考えて素材や製品を設計するという責任を負ってもらう必要があると語った。<4>については,廃棄物管理の社会基盤を世界的に拡充しないといけないと述べた。<5>では,最後の手段として,流れ出たプラスチックを機械で集めるという方法があるが,そうは言っても廃棄物管理の社会基盤は必要であるし,またプラスチックの上流域問題解決のためにはもっとデータを集めなければならないと強調した。

市民の役割・参加に期待

 最後に,ジャンベックさんは「海洋へのプラスチックが流入することを好む人はいない。汚染を改善する方法はたくさんある。多くの人たちが改善方法を提案していくことに期待している」と,プラスチック汚染問題への市民の普段の参加を訴えた。

MDT_s.png

<質疑・応答>

 講演後,質疑応答があった。主な内容(概要)は次の通り。
Q 個人としてプラスチック削減はどこまですればいいのか。「ゼロ・プラスチック」までしないといけないのか。
A 「ゼロ・プラスチック」は難しい。大きな挑戦ではあるが,その重みに圧倒されてやめたいと思うだろう。エコバッグや水筒から少しずつステップを踏んでいくべきだ。製造者にはプラスチック利用をやめることができないのかと伝えることも必要だと思う。

Q 「Marine Debris Tracker(MDT)」(海洋のごみを追跡するシステム。市民が参加する科学ツール。市民がMDTを使ってごみを分類したデータをデータベースに送ることができるアプリ。ただし英語版)はどうすれば手に入れられるか。(海ごみ追跡アプリの画面)
A アップルでもアンドロイドでもアプリがあり,だれでもダウンロードできる。モルガン・スタンレーとナショナルジオグラフィックがサポートしている。

Q 現存する海洋プラスチックはどうすればいいのか。
A バスタブからお湯があふれていたらどうするか。まずはお湯の栓を止める。栓を閉めないで,さきにバスの床を拭いてもダメ。普通なら栓を止めてから床を拭く。たとえば,海岸に打ち上げられている漁網。小さくなると回収するのが難しくなる。だから,まずはごみの海への流入を止めるのが大事だ。そのためにはごみの上流でのアプローチ,つまり(ごみが排出される)源流から止めていくことが重要となる。

Q プラスチック削減の教育の必要性は?
A 議員らや関連団体などと議論をするのは(いろいろな人たちにプラスチック問題を伝えるには)いい機会である。また,科学者と対話し,彼らの声を聞かないといけない。日本では,廃棄物処理が良いので,プラスチック汚染の問題に気づきにくいが,そうした日本においてもプラスチックごみを発生させないことが大切だ。

(文責 三島勇)