横浜・山下公園で海底清掃が行われました(2020/10/18)
2020年10月18日(日),横浜の山下公園で海底清掃が行われました。この日の天候は曇り時々晴れ。清掃は10時から始まりました。この海底清掃は,市民ボランティア団体の"海をつくる会(以後,海会)"が毎年行っています(*1)。「山下公園海底清掃大作戦」と銘打って,今回で第40回。毎年10月に実施しています。海会メンバーは108名,今回は半分50名が参加したイベントです。
12時半にはほとんどのごみが陸揚げされ,ブルーシートの上にヘドロまみれのごみが並びました。温泉のような硫化水素集が漂い,見にきている人々も口々に「臭い」といっていました。水の澄んでいるこの時期の山下公園ですが,海底にはかなりヘドロがたまっていることがわかります。そうした汚濁した海底に市民ダイバーは潜って清掃活動をしているのです。
山下公園は観光地ですが,同時に近隣に暮らす多くの住民の散歩コースでもあるので,海底から引き上げたごみの山を見に来る人は様々です。眺めている人ばかりでなく,大まかに3〜4人に一人がスマホをかざして画像を撮っていました。山下公園は港・横浜の観光地の一角なので,この珍しい光景に出くわした人々がSNSで情報を拡散するのでしょう。そうしたことが,ごみ問題への認識を深めてもらえるのであれば,こうした活動に清掃以上の意義が上乗せされます。
ただ,海会の事務局長の坂本昭夫さんに聞いたところ,「例年だと4月のトライアスロンの大会のための清掃があるのが,コロナ感染症の影響でなかったため,今年だけ見るとごみの量は若干多い感じがします。長年続けてきたこれまでの状況変化から見れば,ごみは一向に減っていなくて,むしろ増えている感じがします。社会的に海洋ごみが注目を集めていて,山下公園のような場所でごみを見ると写真撮影している人は大勢いますが,どのくらいその人たちの心に響いているのかはわからない。」という残念な答えでした。また,新型コロナウイルス感染症の影響でごみの内容に変化があったのかと思いましたが,特に変化はないそうです。
さて,その引き上げられたごみについてです。坂本さんにもらったデータをみると,大きなものではタイヤ2本,道路工事で見かける赤や緑のカラーコーン5個,自転車1台など。数としては飲料系が多く,ガラスびん200本,缶117本,ペットボトル113本,また,プラスチック製の様々な袋は307枚と多い。そのほかにスマートフォンや銀行のキャッシュカード,スケートボード,釣り具などがある中で,危ないものとしては銃弾16発もありました。こうした多様なごみがある中で,全体としてみるといかにもプラスチックごみの多さには驚かされました。
深海にもラーメンの袋が沈んでいることが知られていますから,こうしてたくさんの大きなプラスチックごみが沈んでいても不思議はありません。私たちの見ている海岸に打ち上げられたものや浮いている海のプラスチックごみは実はごく一部で,プラスチックごみは思った以上にたくさん沈んでいるといえます。漂流ゴミがビーチに打ち寄せられていますが,打ち寄せられているのは全体のごく一部ということかもしれません。見えないプラスチックゴミの海洋拡散は想像以上であることが,こうした活動で可視化されることも,潜水清掃の意義を増します。
例年だと,引き上げたごみの中に入っていた生物を水槽に入れて,集まった子供たちに説明するところですが,今年は新型コロナウイルス感染症予防のため,人の密集を避けて開催していませんでした。公開はしていませんでしたが,水槽は用意されていて,中身を覗かせてもらいました。
水槽の画像の中に丸で囲って印した魚がいます。この画像では小さくてわからないと思いますが,アイゴの稚魚だそうです。アイゴは沖縄で「スク」といい,塩漬けを「スクガラス」といいます。島豆腐に乗せて一緒に食べる塩辛い漬物です。南方の魚で,今回参加していた会員で神奈川県水産総合研究センターの工藤孝浩さんによれば,東京湾では初めて目にしたとのことでした。10月中旬というのに南からやってきたのでしょうか。こうした現場での活動が思わぬ発見をする場合があるという例です。
ところで,こうした活動を動かすのにかかるお金や労力はどのようなものでしょうか。坂本さんに聞いてみました。
すると,1回の海底清掃にかかるお金としては,潜水するためダイバーの使うボンベは高額になることは容易に予想できますが,テントの設営や関連の行政窓口(横浜市の公園管理や港湾局,海上保安庁)への許可申請の交通費もバカにならないということです。時間も取られます。作業中は,事故のないように警戒船も手配しなければなりませんし,ごみの処理にもお金がかかります。こうした諸々を入れると,総額で40万円以上かかるということです。
そこで今回の清掃では横浜市港湾局に助成金を申請しています。また,横浜市港湾局と共催しているため,いくつかの部分で支援が受けられています。例えば,清掃活動のために水域を占有する許可とか,テントを張ってそこを使用するためには面積あたりの使用料が請求されますが,公共性があることと港湾局との共催であることで免除されています。また,集めたごみの処理については,(一社)横浜清港会に申請して了承されているので,無料で回収してもらえるということでした。
陸上の清掃でも公共の場で行うのは大変ですが,ましてや海底清掃の場合,運営には多額の資金と,行政各方面への申請が大変です。ボランティア活動でも資金を提供する有料ボランティアなどの制度があれば,もう少し活動が活発になりそうです。また,申請に関しても,公共性を鑑み,オンライン申請で窓口を一本化してよりスムーズな市民活動ができるようになることが望まれます。
現場のすぐ脇を見るとプラスチックのごみたちがすでに漂っていました。賽の河原で石を積むような努力が続けられていて,頭がさがる思いがしました。
(文責: 野村英明)