地球上の人工物の重さが2020年,全生物の重さを超える~プラスチック量は動物の重さの2倍に上昇
地球において,人類が作ったコンクリートやプラスチックなどの質量(人工物量)が2020年,全生物の質量(生物量)を上回ってしまう。イスラエルの研究者らが科学誌「Nature」(2020年12月17日)に公表した論文でそれを示した。人工物は,コンクリートや砕石,レンガ,アスファルト,金属が主だが,プラスチックも含まれている。研究者らは,廃棄物を含めた人工物の増加がこのまま続けば,2040年までに地球上の生物量の3倍にもなってしまうと予測している。
ワイツマン科学研究所のロン・ミロ(Ron Milo)教授らは,私たちの文明は,3000年前の初めの「農業革命」から地球上の生物量に深刻で多様な影響を与え,それ以来,人類が植物の量を半分にし,ほぼ現在の量としたと指摘する。生物量が減っていくことで,カーボンサイクル(炭素循環)や人間の健康に影響を与えているとしている。
ミロ教授らは,1900年からの全地球の生物量と人工物量を,乾燥質量(物質から水分を除いた質量)で見積もり,全人工物量が全生物量約1.1テラ(※1)トンを上回る転換点が2020年になろうという。1.1テラトンは,重さが150トンにもなるシロナガスクジラ約73億頭分に相当する量だ。
過去100年間以上にわたって,生物量はあまり変化していない一方,人類が作ってきた物質の量は,「ムーアの法則」(※2)のように,およそ20年ごとに倍増していき,その蓄積量は過去5年間の平均で年30ギガ(※3)トンにも達しているという。その結果,人工物量と生物量の差は急速に縮まり,2020年には人工物量が生物量を上回ることがわかったとしている。
この分析において主要な物質は2種類あり,一つは,人工物であるコンクリートや砕石,レンガ,アスファルトからなるビルディングとインフラ(道路など)で,もう一つは,植物量の大部分を占め,全生物量の多くの部分を占める樹木であるとしている。前者は1100ギガトン,後者は900ギガトンと,前者が後者より多い。製造されたプラスチックの全質量は8ギガトン(シロナガスクジラ約5300万頭分)に達し,陸と海に生息する動物の全質量4ギガトンの2倍となると推計する。
20世紀の初めに人工物量は全生物量のたった3%に過ぎなかったが,約120年後の2020年には地球上の人工物量は全生物量を凌ごうとしているという。人工物量の変遷は,世界大戦や経済危機などの世界的な出来事に左右されているとした上で,第二次世界大戦直後,人工物量はピークには年5%を超えて増加していたことが特徴的だ,とミロ教授らは指摘する。この特徴的な時期は"大加速"とも言われ,消費拡大と郊外開発が顕著だった。このような増加傾向が継続すれば,廃棄物を含めた人工物量は,2040年までに生物量(乾燥質量)のほぼ3倍にもなり,3テラトンを超えると予測している。
人間活動の影響が急激で膨大であるため,現在の地質年代を「人新世(Anthropocene)」(※4)という名称にしようと提案されている。ミロ教授らは,この研究はその量的な評価を行うことによって「人新世」を裏付けていると主張している。
(文責:三島勇)
注(※)
※1 テラ(T)
1兆,10の12乗
※2 ムーアの法則
インテル創業者の一人のゴードン・ムーアが,半導体の集積率は18か月で2倍になると唱えた経験則。ここでは物質量が一定期間に倍々になっていくことの喩えとしている。
※3 ギガ(G)
10億,10の9乗
※4 人新世(Anthropocene)
パウル・クルッツェン(ノーベル化学賞受賞)が2000年に学会で提案,それ以前からこの言葉を使っていたユーゲン・ストーマーと共に共同で同年に論文に出したことで知られるようになった。ただ,人新世は,20世紀後半の「大加速」からという説や19世紀初めからの産業革命から始まっているという説,資本主義の始まり(17〜18世紀)からという説などがある。この論文では人新世を「大加速」からと考えている。