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2020.12.11

出版物の紹介:『FRaU SDGs Mook OCEAN 海に願いを。』(講談社編)

FRaU SDGs Mook OCEAN 海に願いを。』(講談社編,909+税)

 海洋プラスチック汚染を防ぐには,私たちは具体的にどうしたらいいのだろうか。そう考え,関連する書籍や雑誌を書店やインターネットで探していたら,このムック(MOOK)に出会った。取り上げている内容は,海洋プラスチック汚染の現状や人体への影響などについて説明・解説から,国内外の人びとの海洋汚染防止の取り組み,環境に配慮したライフスタイルや商品の紹介など,幅広い。

20201210SDGsMook_ocean_s.jpg 「海洋プラスチック汚染」というと,「何か大変なこと。難しそうだなあ」と尻込みがちな人にぜひ読んでもらいたい。肩肘張らずに読めて,社会的に関心を集めている海洋プラスチック汚染問題について知ることができるうえ,汚染防止など環境に配慮した生活が楽しくできそうだと思えてしまう。「お得感」は相当高い。

 ページを繰ると,まず驚くべき写真が並んでいる。写真家のクリス・ジョーダンさんが撮ったものだ。最も近い大陸から3200キロ離れたミッドウェー環礁。アホウドリの赤ん坊の遺骸とその胃袋にあった赤,黄,青などのプラスチックが,目を,心を,捕えて離さない。いったいどうしたというのだ。何千ものアホウドリの赤ん坊の胃袋の中に現れるというプラスチック。「汚染された太平洋上で餌をあさり,漂流ごみを食べ物だと勘違いした親鳥たちによって,ヒナたちは致死量のプラスチックを与えられている。」(7ページ)。

 評者は,20年ほど前になるが,アホウドリの最大繁殖地・伊豆諸島鳥島に上陸し,アホウドリの保護増殖調査を取材した。長谷川博・東邦大名誉教授に,ヒナが吐き出した,大量のプラスチック片を見せてもらった。本書を読み,長谷川さんが言ったことを思い出した。アホウドリのヒナは,親鳥が海の浮く光るものを餌と間違えたプラスチックを与えられている,と。東京から約600キロ離れた絶海の孤島(無人島)の周辺の海にも,私たちが生活で使い,捨てたプラスチックが海を漂い,人とあまり関わりのない海鳥に影響を与えていることを知り,ショックを受けた。

 ジョーダンさんは,アホウドリを撮影するうちに,アホウドリなどの鳥たちが目の前で息絶えていく姿を見て,苦悶した。これは鳥たちに愛情を持っているからと気づいたという。「僕は"深い悲しみ"を感じることも大切だと思っています。人生は楽しい瞬間だけではないからね。現代社会では,悲しみや喪失感は恐れられ,避けられる風潮にある。なぜなら人々はそれを"不幸"と同じだと受け取ってしまうから。けれども,現実には悲しいことも喪失感も日常でたくさん起こっています。悲しみを受けいれても愛があれば,絶望を感じる必要はない。時に悲しみは,問題解決への扉を開いてくれるものでもある」(11ページ)。アホウドリの写真などを通して海の問題を訴えるジョーダンさんは,こうも言う。「誰もが自分が住んでいる地球を愛しているはず。いま地球でこんなことが起こっていると知れば,何ができるか,何かしたいと考えるでしょう。いたずらに恐怖に陥らず,目を背けず,いかにしてその事実に対して向き合っていくかが今,問われているのだと思います」(同)。

 本書は,プラスチックが砕けてできたマイクロプラスチックが海に広がり,海底に沈殿することや,漂流するプラスチックごみが海の生き物を傷つけ,命を奪っていること,食用の魚介類からマイクロプラスチックが見つかっていることなど,海がプラスチックに汚染されている状況を,イラストや数字を用いて,わかりやすく説明している。

 また,企業などの汚染防止への取り組みも紹介している。たとえば,プラスチックごみから生まれたリサイクル素材で作ったランニングシューズやトレーニングウエア(ドイツのアディダス),米とタピオカで作られた,食べられるストロー(韓国の靴製造業者),竹の歯ブラシ(ドイツのHYDROPHIL),捨てられるプラスチックでバッグやPCケースなどを製造(ガーナのTrashy Bags),使用済みの洗剤容器から誕生したシンプルな家具(メキシコのluken)など。

 もちろん日本の取り組みもある。徳島県勝浦郡上勝町の「ゼロ・ウェイスト宣言」や東京・青山で開催されている「ファーマーズマーケット」の量り売り,寒天を原料にした可食性フィルムを開発した伊那食品工業(長野県伊那市)などだ。

 さらに,「海にやさしいプロダクト」として,シリコーン保存バッグや天然素材ラップ,綿100%のスポンジ,竹繊維ストロー,洗濯物から出るマイクロファイバーを減らすフィルターバッグ,ラバー消しゴムなど,数多くの製品が取り上げられている。

 最後に,「海のために,今日からできる50のこと。」でライフスタイル変更を勧める。たとえば,「Refuse(拒否)→Reduce(削減)→Reuse(再利用)→Recycle(再生利用)→Rot(堆肥化)。5Rを暮らしの中で実践してみる。」,「ペットボトル卒業! マイボトル生活をはじめる。」,「ホテルの使い捨てアメニティは,できるだけ使用しない。」,「海を守る運動に参加する。忙しい人は寄付だけでも。」,「使い捨てのボールペンをやめて,鉛筆や万年筆を使う。」,「SDGsに取り組んでいる企業を調べて,応援する。」,「イルカと泳いでみる。」・・・そして「海は人間だけのものではない,ということを忘れない。」

 少しの「決意」さえあればすぐにできそうだし,50のうちの23を守っても,十分に「環境にやさしい」生活を送れるような気がする。

 「便利さ」に立ち向かうには,「楽しさ」がないといけないんだなあ。みなさん,そう思いません?

(文責:三島勇)