Columns & Reportsコラム・レポート

2021.01.19

プラスチック依存を断ち切る方法はあるか~地球を守るためにできること

 「ナショナルジオグラフィック日本版」(2019年12月号)に「やめられない? プラスチック依存」という記事が掲載されている。プラスチック製品が,どのように私たちの生活に浸透していったか,プラスチック依存からどう"回復"できるかを,8つの製品ごとに探っている。

20210119_image0S.jpg 取り上げられているプラスチック製品は,カトラリー,ボトル,歯ブラシ,靴,タイヤ,たばこ,生理用品,食品用ラップ。まずはその消費量の多さに驚かされる。プラスチック製のフォークやナイフ,スプーンといったカトラリーの使い捨ては毎年数十億個,世界各地で1分間に購入されているプラスチック製のボトルは100万本,プラスチックなどの素材で作られる靴は2018年で242億足,米国で捨てられる歯ブラシは10億本(2019年の予測値),全米各地のごみ捨て場に廃棄されるタイヤは6000万本,世界で毎年みだりに捨てられるたばこ(フィルターはプラスチック製)の吸い殻は3兆本・・・数字がプラスチック依存を如実に示している。

 いくつかの製品についての記述を見ていこう。

 私たちが毎日使う歯ブラシの素材は,ほぼすべてプラスチックだ。1930年代に登場した歯ブラシは,2003年にマサチューセッツ工科大学が行った世論調査では,生活に不可欠な技術革新として,車やパソコン,携帯電話よりも上位にランクされたという。歯ブラシに天然の素材を取り入れようとする動きもあり,柄の部分を金属や竹で代用する。ブラシ部分は交換式にして,毛の密度を高くすれば寿命も延び,使用量は減らせるはずだと指摘している。

 タイヤがプラスチック汚染の原因の一つであることはあまり知られていないと指摘する。タイヤは道路を走行する際,摩擦により合成ゴムの破片をまき散らし,破片は雨が降ると道路から河川へ流れ込むことがあるという。ある推計では,海に流入するマイクロプラスチックのうちタイヤが28%占めるとしている。1909年,商業用の合成ゴムが開発され,タイヤの原料として使われるようになり,1931年には米デュポン社が合成ゴムの大量生産を始めた。近年,環境に配慮したタイヤの開発が進められるようになり,米ミネソタ大学が率いる研究チームは,植物を使って合成ゴムの主原料を作る方法を発見したという。ただ,タイヤの問題が認識されるようになったのはごく最近で,解決に向けた研究は始まったばかりだとしている。

 たばこのフィルターには酢酸セルロースというプラスチックが使われていて,海に流入すると,やがて砕けてマイクロプラスチックになるという。灰皿に捨てられる吸い殻は,世界で販売されている5~6兆本の3分の1に過ぎず,残りは道路や河川に投げ捨てられ,やがて海に流れ込んでニコチンやタール,プラスチック製のフィルターが環境を汚染すると指摘する。このフィルターは,1950年代,たばこ会社が煙に含まれる発がん物質を抑制できるという触れ込みで開発されたが,フィルターのおかげでがん死亡者が減ったとは思えないと批判している。

 スニーカーの大半は,一部もしくはすべてがプラスチックでできている。靴の素材はさまざまな素材が複雑に組み合わされているため,リサイクルするのはほぼ不可能だという。プラスチック製の靴は1950年代に登場したが,現在,その利用を抑えるのは難しいという。ただ,再生プラスチックや竹や木などの天然素材で靴を作っているメーカーも出てきているとも指摘する。

 記事ではプラスチック依存から脱却するために「私たちにできること」を製品ごとに示している。たとえば,タイヤについて,(1)できるだけ公共交通機関を利用する(2)タイヤ交換の際,古いタイヤをリサイクルする(3)車の相乗りを活用し,運転回数を減らす,としている。たばこについては,こう勧める。(1)吸い殻は灰皿に捨てる(2)フィルターを使わず,たばこを手巻きする(3)リサイクルされない電子たばこは吸わない,と。靴はどうか。(1)できるだけこまめに靴を修理する(2)靴の購入数を減らす(3)履かなくなった靴は捨てずに寄付をする,と提案する。

 筆者は非喫煙者で,喫煙者の中でどのくらいの人がたばこを手巻きするかは想像もできないが,この記事にあるほとんどの提案はそれほど難しいとは思えない。たとえば,靴の寄付については,日本の靴販売店でも行っている。実際,筆者も利用したことがある。自動車は公共交通機関が乏しい地方では「生活必需品」だ。自動車の利用を抑制することは難しく感じるかもしれないが,まとめ買いで買い物に行く回数を減らしたり,近場には自転車や徒歩で出かけたりするなど,工夫次第で自動車利用を減らすことはできる。そうすれば二酸化炭素排出も抑えられる。

 取り上げられている製品の「私たちにできること」はいずれも,生活の仕方をほんの少し変えることでできそうなことばかりだ。さあ,これを参考にしてちょっとだけ生活スタイルを変えてみませんか。

(文責:三島勇)