Columns & Reportsコラム・レポート

2021.03.01

プラスチック汚染抑制~プラスチック製品の供給側ができることと限界 1

産業界へのプラスチックごみ問題の"処方箋"とその限界―3つの削減戦略は有効か

プラスチック削減の事業者側の責任

 海洋汚染原因の一つであるプラスチックを減らすには,私たちはどうしたらいいのか?そうした問題意識を持ってプラスチック削減対策を調べていると,私たち,つまり消費者側に対策・対処を求める内容のものは豊富に見つかる。自戒をこめて言えば,これまで紹介した事例のほとんどが「みんなでペットボトル使用を減らそう」「レジ袋を使わないようにしよう」「プラスチックの代替品を利用しよう」といった消費者側の行動変容をうながす内容のものだった。

 しかし,他の廃棄物と同様,プラスチックごみも,製造から消費財としての使用,そしてその後の処理まで,プラスチックのライフサイクルを見渡し,改善に向けて取り組むことができる,いくつかのステージがある。ここでは,プラスチックごみ問題の視点を供給者側に向け,産業界に必要な改革について,スイスに拠点を置く非営利団体「世界経済フォーラム(WEF)」が英国の慈善団体「エレン・マッカーサー財団」とともにまとめた報告書『新プラスチック経済 促進方法』(2017年1月公表)をもとに考えたい。

 報告書は,40年以上も前にリサイクルの最初の象徴となったプラスチック包装容器だが,現時点で,リサイクリング(プラスチックの物質循環)のために回収されている量はわずか14%であると指摘する。そのうえで,この部門を改善し,「新しいプラスチック経済」を実現していくには,3つの改革戦略が必要であるとしている。改革戦略は,(1)原料や添加剤などの製造から流通までの過程の見直しと革新的技術の開発(重さによるプラスチック包装容器市場の占有率30%分に対応)(2)リユースの促進(同20%分に対応)(3)使用後の処理を考慮した包装材のデザインなど,上流側と下流側の調和による改善(同50%分に対応),という(図1)。

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図1. 「新プラスチック経済 ~3つの改革戦略.
※『新プラスチック経済 促進作用』をもとに作成. シェアはプラスチック包装容器の市場占有率(重さ換算).

(1)プラスチック包装容器の製造流通過程の見直しと技術革新

 30%分の製造流通過程における見直しと技術革新の対象は,「小型容器」(小袋,袋を破った切れ端,ふた,菓子の包み紙など),「複数種利用」(レトルト食品など保存性を向上させるため異種の材料を使用),「非汎用材料」(ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,発泡スチロール),「栄養素汚染(食品や化粧品の容器などたんぱく質や脂肪,炭水化物などの栄養素で汚れたもの)」に分類される包装容器だ。いずれも高い機能性を持っているが,リユース・リサイクルの実現可能な方法がなく,近い将来も見つかりそうもない。円滑な物質循環ができるようにするには,素材・形状・デリバリーモデル・使用後処理システムを見直し,技術革新を進めていくことが必要としている。4部門について具体的な対応などは表1にまとめた。

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(2)リユースの促進
(2-1)ボトルの削減

 20%分は,リユースが経済的に魅力のある市場であり,実現へのハードルは低そうだ。報告書によると,たとえば,パーソナルケア,ホームケアのボトルと買物袋(レジ袋)をリユースするだけで,600万トンの原料プラスチックを節約でき,90億ドル分のビジネス・チャンスを生み出す。

 使い捨て容器をリユース可能なものに換える例は,すでに液体洗剤などのクリーニング製品,シャンプーや化粧品などのパーソナルケア製品などにある。成分の液体を袋詰めにして,リユース可能容器に詰替える方式だ。

このような製品の多くは一般的に使い捨て容器に詰められる。ただ,内容物のほとんどが水分で,「有効成分」は少しだけだ。詰替えボトルを使うデリバリーモデルに換え,有効成分のみを販売・運搬すれば,原料費と輸送費を大幅に節約できる。報告書によると,容器原料費用の80~90%と容器に詰める費用の25~50%を減らせる。このリユースモデルが,家庭用クリーニングやビューティーケア,パーソナルケアの全ボトルに採用されれば,原料が300万トン減り,容器費用が約80億ドル節約でき,運送費が85~95%も減らせる。また温暖化効果ガスの排出量も80~85%減る。

(2-2)レジ袋の削減

 報告書によると,使い捨てレジ袋は世界中で毎年約3300億枚生産されている。1秒で1万枚超作られている計算だ。使い捨てレジ袋は,数分から数時間使われるだけで,あとは環境中に漏れ出て,ほとんどがリサイクルされない。新興国では,レジ袋を回収しリサイクルに回すために十分な量を確保ができず,経済的に割が合わない。一方,先進国では,多用されるレジ袋は自然環境に漏れ出ている。

 現状を見れば,レジ袋削減はかなりの経済的効果を挙げるだろう。報告書は次のように指摘する。すべての国がレジ袋の95%をリユースできるものに換えれば,レジ袋は毎年3000億枚超減る。リユースできる袋やごみ袋(レジ袋はよく第二の用途としてごみ袋として使われる)の生産が増えるという"反動"があるとしても,リユース可能なものを使うと200万トンの原料,9億ドルの原料費が節約できる。

 ただ,このコスト削減には,回収と使用後の再処理に係る追加的費用の節約分や,レジ袋の環境中への漏出に関する外部不経済(筆者注:経済活動に伴い直接関係していない第三者が受ける不利益で,環境汚染も代表的な例である)-社会基盤(インフラ)と環境への負荷-の低減は含まれていないとしている。

(2-3)飲み物ボトルの削減

 飲み物ボトルのリユース・システムについてはどうか。報告書によると,このシステムは,経済的にも環境的にも利益を生む。飲み物ボトルはプラスチック包装容器の中で少なくとも16%(重さ)を占める。リサイクルのため広く回収されているが,使用回収後の使い捨てボトルは原料としての価値は大きく下がる。たとえば欧州ではペットボトルの価値損失が50%を超える。返却ボトルと詰替えボトルのリユースモデルは,原料コストを低下させるので,使い捨てよりも二酸化炭素排出量削減の潜在力がある魅力的な選択肢となる。しかも,飲み物ボトル(プラスチックと非プラスチック)のリユースモデルでは実績がある。

 報告書は,返却システムがうまくいくかどうかは,ほかの投入原価と比較した原材料費,容器の劣化の程度,規制体制,使われ方などの要因に左右されるとする。他方,詰替えシステムの成否は,飲料水供給設備など詰替え場所の利便性と利用者の選好によるところが大きいという。

 世界のリユース可能な飲料水ボトル市場(2015年で約70億ドルとされる)は2016年から2040年の間,年4%超の成長が続くとみられる。リユースモデルは,魅力的な選択肢で,世界中の飲み物ボトルの少なくとも10%(プラスチック包装容器市場の2%)分が経済的,環境的利益を生むという。

(3)上流(デザイン)と下流(使用後処理システム)の調和
(3-1)デザインと使用後処理システム(回収・分別・再利用)の調和

 残る50%分についてはどうか。報告書によると,デザインと使用後処理システム(回収・分別・再利用)が調和すれば,リサイクリングは経済的に魅力的となる。リサイクリングの経済は,飲み物のペットボトルなどでは確立しているが,概して回収・分別・再(生)利用のコストは,それによって生み出される収益を上回る。たとえば,欧州においてこのコストは回収分1トン当たり170~250ドル相当になる。

ただ,このコスト計算には,プラスチック・リサイクリングの環境的,社会的な利益(たとえば温室効果ガス排出量削減,土地利用や生物多様性,大気の質への環境負荷低減,雇用創出)は入っていない。たとえば,プラスチック1トンをリサイクリングすれば,廃棄物場処分とエネルギー回収のための焼却を合わせた分と比較して,二酸化炭素1トン相当の温室効果ガス削減し,100ドル相当以上の社会的価値を生み出すという。

 また,包装容器のデザインは,回収,分別,再利用の経済性と深く結びついていると指摘する。包装容器用品が使用後のリサイクリングでどのくらいの収益を生むか,または処理のための追加的費用につながるのかは,原料と色,形状などのデザイン要素で決まる。ペットボトルのリサイクリング・システムに非リサイクル物が混入すると,リサイクル可能物の場合と比べ,回収物1トン当たり300~350ドル相当の追加的コストが生じる。たとえば,リサイクル率の低い不透明なペットボトルは,フランスで毎年5000~6000トン分が売られているが,リサイクリング・システムに年間1000万~2000万ドル相当の回避可能なコストを加えてしまっている。

(3-2)デザイン変更すべき形状,原料,着色料,添加剤

 プラスチック包装容器の4つの分野でデザイン変更を行うことで,リサイクリングの経済性は,回収プラスチック1トン当たり90~140ドル相当も向上する,と報告書は指摘する。4つの分野のデザイン変更で生まれる経済価値は表2の通りである。

20210220A_table2.png 形状の場合は,外形やラベル,袋,印刷,接着剤,蓋,蓋の裏地,(シリコン製)バルブ,ポンプ,締め具,切取り部分などに関係する。原料の場合,たとえばPVC(包装容器市場占有率1.5~2%)を再利用できるプラスチックに換えることや,PS・EPS(市場占有率6%)をよく使われている原料プラスチックで作ることだ。着色料の場合は,無使用や変更という選択肢で,色付きを透明や半透明に変えることである。添加剤では,軽量化などの特性を出すために加える物質の使用可否になる。ある種の添加剤は,プラスチックを軽くすることで分別を難しくするなどの影響を与えると言われている。

(3-3)脆弱な使用後処理システムの改善

 報告書によると,現状の回収・分別システムは脆弱であり,このためリサイクリング全体の経済性を悪化させている。使用後処理システムは,そのシステムがある国や自治体でさえも,多くが小規模であり,仕組みも大きく違う。こうした不均衡は,市民の混乱を招き,新しいシステムの創設を困難にし,ひいては使用後処理システムの大規模化とコスト削減を阻害する。この脆弱性は,異なる回収システムから分別工場,リサイクル業者への一貫した高品質の原料供給も妨げ,リサイクル業者の採算を悪化させて,リサイクリングのコストを引き上げてしまうという。

 報告書は,使用後処理システムの不均衡の修正や回収・分別の仕組みの改良,再生産の仕組みの高品質化・規模拡大を行えば,経済的な利益が生まれるとする(表3)。

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改革戦略の限界~「解」は私たち市民にある

 報告書は,プラスチック包装容器のリサイクリング・システムを確立すれば,原料や原料費などが節約され,経済的利益につながり,結果的にプラスチックごみによる海洋汚染などの環境汚染を抑制し,環境的な利益も得られるとしている。また,新しいリサイクリングの事業は雇用を創出するなどし,社会的利益も生み出すとする。

プラスチックの製造流通やリユース・リサイクルの仕組みを改良すれば「利益」が湧き出てくる。だから,企業が製造流通改革を推し進め,円滑に物質を循環させれば,「新プラスチック経済」が誕生すると未来を描く。簡略化した言い方をすれば,筆者は報告書がそう訴えていると受け止めた。

 しかし,報告書の改革戦略は,プラスチックごみなどの廃棄物問題の原因とされる「大量生産-大量消費-大量廃棄」という経済システムの温存を前提とした「対症療法」ではないかと疑問を持たざるを得ない。これではプラスチックごみ問題の抜本的な解決につながりそうもない。そのうえ,かりにこの戦略が推進されても,プラスチックごみの削減傾向は緩慢となり,汚染を抑制するための時間は相当長くなるだろう。

 日本を見てみると,プラスチックのリサイクル率は高いと言われている。しかし,回収されたプラスチックごみの半分以上は焼却されている。これを「熱回収」と称して「リサイクル」としているが,世界の標準的な考えとはかけ離れている。プラスチックを含めた廃棄物の焼却方式について,経済学者の宮本憲一氏は「リサイクリングによってごみ減量を進めるという住民参加の環境政策の原則を崩し,大量消費-大量廃棄というシステムを進めることになった」(『環境経済学 新版』(岩波書店)p173,174)と厳しく批判している。

 プラスチックごみ問題を「利益」を追求しながら解決していくには大きな壁が立ちはだかっている。たしかに,私的企業が「利益追求」を優先目的とするのは資本主義社会では当然と受け止められる。そうしないと私的企業は生き残れず,雇用も喪失してしまう。しかし,私的企業がその活動において「公共性」を蔑ろにすることがあることも,歴史が証明している。企業活動の結果,人の健康や環境に問題を起こしたとしよう。それを認めると企業にはその対応のために多額の出費が発生し,ひいては企業の存続が危ぶまれる事態の招来が予測されるとき,自社の「利益」を優先し,人の福祉や環境という「公共性」をいとも簡単に捨て去ってしまう。水俣病などの日本の公害問題でチッソなどの企業が取った行動がそのことをはっきりと示している。

 プラスチック汚染問題解決の「最適解」は,消費者だけで括れない「市民」である私たちが,プラスチックに依存しない生活様式を選び,供給者側に働きかけていく途上にあるような気がしてならない。

(文責:三島勇)