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2021.04.22

道路の雨水がマイクロプラスチックの大きな"供給源"の可能性

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東京農工大などが東京の河川水から自動車タイヤなどから発生したマイクロプラスチックを検出

 東京の河川水には,雨天時,道路から流れ込んでいると思われるマイクロプラスチック(MP)が多くなることが,東京農工大学と東京大学のチームの研究からわかった。しかも道路雨水からのMP量は全体のかなりの割合となる可能性もある。この研究成果は国際学術雑誌「Environmental Monitoring and Contaminants Research(EMCR)」(2021年4月16日公開)に掲載された。道路上で自動車タイヤや捨てられたプラスチックから発生した大量のMPが東京湾に流出し,生物に影響を与えている可能性もあり,さらなる調査が求められる。

 研究論文によると,東京において採取した,未処理の下水と二次処理の下水,高速道路の雨水,それに好天時と降雨時の河口表層水に含まれるMP(大きさ0.01~5mm)の数量を調べた。最も多かったのは0.2mmより小さなMPで,どの採取水も総数の60%を超えていた。MP濃度(個数濃度)は,未処理水で420個/Lだったが,二次処理水で8.7個/Lと減少したことから,二次処理でMPの98%が除去されたと考えられるとしている。

 チームは,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンプロピレンジエン(PEPD)など8種類を計測した。

 PETが最も多く見つかり,未処理水で全体の88%,二次処理水でも49%を占めた。ほとんどが繊維状で,洗濯排水によるものと思われるとしている。

 高速道路の雨水を計測するとMPは81~292個/Lと高濃度だった。PE(25~49%),PEPD(13~30%),PET(3~12%)の順で多かった。いずれも自動車タイヤの破片と路上で風雨に曝されたプラスチックから発生したと思われるという。

 河口表層水のMP濃度は晴天時で1.4~2.3個/Lだった。PETが52~77%と多くを占めていることから,主に処理済下水からもたらされたと推定する。一方,降雨後のMP濃度は1.8~4.3個/Lに上昇した。特にPEPDが急増して43~52%を占め,この場合のMP供給源は道路からの雨水であるとみている。チームは,両ケースを合わせたMP濃度1.4~4.3個/Lは,これ以下では有害な影響が起こるとは考えにくいとされる水準である閾値濃度(6.65個/L)を下回るが,それに近いレベルであると指摘する。この研究では従来よりも小さなMPも多数計測したため,過去の研究よりもリスク評価の精度が高められたと意義を説明する。

 より微細なMPの計測はMPが関与する粒子毒性(生体が同化できない物理的な異物の体内への侵入による生体反応)の評価には重要である。チームは,0.01~0.1mmという最小サイズのMPを最も多く検出している。これは川や河口の水には0.01mmよりも小さなMPが多く存在することを示唆していると指摘する。0.01mmより小さなMPを含めると,MPによる粒子毒性はもっと重大になることが予想される。このため,今後の研究では,より微細なMPを計測することの重要性を提起した。

 さらに,チームは,MP汚染の道路雨水による寄与度を量的な面から議論を深めるため,研究で得たMP数量といくつかの社会統計データを利用して,次のような計算を行った。東京都の道路面積188平方キロメートルに年間降水量1870mmを掛けて,道路雨水が年間352メガトン発生していると見積もった。そのうえで高速道路雨水のMP濃度81個/Lに,年間道路雨水量を掛けて,道路雨水によるMP数を年間28テラ個と推定した。この推定値は,東京で年間に排出される二次処理水2ギガトンに処理水中のMP濃度8.7個/Lを掛けた値,すなわち処理済下水として放出される推定MP数年間17テラ個に匹敵するとしている。

 今回の研究では,限られたデータからではあるが,膨大な量のMPが道路から海洋に流出しているうえ,さらに微小なMPも相当な量が上乗せされる可能性が大きいことが示唆された。

 このため,海洋生物への粒子毒性のリスクが懸念される。したがって,できるだけ迅速に,微小なMPを採取・選別・計測できる手法を確立し,都市の道路雨水や河口表層水などのMPの調査・研究を進めることが必要だろう。

 チームも,今回の研究で,都市部の水環境におけるMPの発生源として道路の雨水の重要性に光をあてることができたとしたうえで,今後も調査・研究を重ねていく必要があるとしている。

(文責 三島勇)


単位の説明:
1メガ(M)=1,000,000=10の6乗
1ギガ(G)=1,000,000,000=10の9乗
1テラ(T)=1,000,000,000,000=10の12乗
つまり「MP数が年間17テラ個」とは,「MP数が年間17,000,000,000,000個」ということになる。