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2021.06.15

出版物の紹介『脱プラスチック:データで見る課題と解決策』(レイチェル・サルト著)

『脱プラスチック:データで見る課題と解決策』
レイチェル・サルト著,日経ナショナルジオグラフィック社刊,1760円(税込)

 写真とイラスト,データを多用し,プラスチックの製造方法や製造から廃棄までに環境への影響,プラスチック依存からの脱却,プラスチック汚染のない未来の展望までをわかりやすく解説している。この1冊でプラスチック汚染の概要と脱プラスチックへの道を知ることができる。

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 たぶん多くの人が知りたいと思う「プラスチック依存」の「解決策」は,本書では「小さな解決策」と「大きな解決策」に分けられている。

 「小さな解決策」は6つの「R」にあるという。「リデュース(Reduce減らす)」と「リユース(Reuse繰り返し使う)」,「リサイクル(Recycle再資源化する)」の3Rに,「リフューズ(Refuse断る)」と「リペア(Repair修理する)」,「リシンク(Rethink考え直す)」を合わせた6Rだ。

 始めの3Rはよく知られているが,後の3Rはどういうことか。

 リフューズ。使う必要がないのに何となく使っているものに「ノー」ということから始まるという。飲み物についてくるストローや化粧品ブランドの無料サンプルなどに面と向かって「いりません」ということはちょっと難しいが,提供する人に不快な思いをさせないで断る方法を紹介する。たとえば,ドリンクを注文するときに「ストローはいりません」と言う。出されてからより,出てくる前に断る方が簡単だからという。

 リペア。「自分の持ち物を修理できるようになれば,ごみをかなり減らせる」。お金の節約,新しい趣味にもなる。衣服や電気製品などには多くのプラスチックが使われている。たとえば,裁縫への挑戦。縫い方はインターネットにいくらでも出ている。はんだ付けもいいようだ。はんだごて1つあれば電気製品が修理できる。さらに,修理予防法も示す。衣服を乾燥機にかけると繊維が傷むから,自然乾燥させる。エネルギーと電気代の節約にもなる。洗濯は最小限にし,化学繊維は温水で洗うと分解しやすくなるから冷水を使うといいとアドバイスする。パソコンもプロに直してもらえば寿命を延ばせるという。

 リシンク。プラスチックの利用法を考え直すことも大事だという。たとえば,ペットボトルで吊り下げ式のプランターや玩具,鳥の餌台などを作る。選挙で環境保護派の候補者に票を入れることも,プラスチック問題に取り組む方法の一つとなる。「地域にそういう人がいないなら,自分で出馬してはどうだろう」とも言う。

 「大きな解決策」とは地域,企業,国単位での取り組みだ。

 本書は「リサイクル」や「生分解性プラスチック」,「禁止と課税」,「クリーンアップ(除去)」,「循環型経済」を取り上げるが,思わぬリスクもあると注意を促す。たとえば,リサイクルでは,プラスチックは再生利用すると品質が下がり,せっかく回収されたのに処分場に直行してしまうといった問題がある。生分解性プラスチックは,必ずしも自然環境で分解しないなどの課題もある。また,レジ袋の有料化を早くから始めたアイルランドでは,レジ袋利用は当初激減したものの,また徐々に増えてきていると指摘する。

 車やパソコン,スマートフォンなどの身の回りのものにもプラスチックが多く使われている。買い替えを控え,同じものをできるだけ長く使用することを勧める。一方,「アップル製品はアップルストアでなければ開けられない特別なネジを使っているし,MacBookにはサードパーティーの修理を検知したらロックダウンするようなチップまで組み込まれている」と指摘したうえで,「修理を難しく高価にしている会社,つまり消費者が面倒を避けて新機種を買いたくなるよう仕向けているメーカーは,アップル1社だけではない」と"告発"する。

 ザラやH&Mなどのファストファッションにも厳しい目を向け,「つくりがチープなわりに値段が高い。服の質は往々にして悪く,すぐにすり切れたりする。環境に深刻な影響を及ぼしているし,労働環境は劣悪で,労働者の健康が脅かされていることが多い」と厳しく批判する。

 著者は,プラスチック汚染のない未来を目指すには,プラスチック製品の消費を減らすことが重要だと主張する。「リサイクルはごみを一部減らす方法であって,出したごみを帳消しにするわけではない」のだ。このほか,プラスチックの代わりになるものを見つけたら本当に環境に優しいのかなどよく考えてから選択すること,自分が出すプラスチックごみの監査を年に何回かして「プラスチック・フットプリント」(プラスチックの使用量)を計算すること,プラスチックに関わる企業に説明責任を求めること,仲間と力を合わせて解決していくことなどを提案する。

 プラスチック汚染の解決への道のりは遠い,と感じる人は多いだろう。しかし,著者は,乱獲で絶滅寸前に追いやられたザトウクジラが劇的に回復してきたこと,オゾン層破壊の原因である化学物質フロンを規制しオゾンホールが縮小していること,環境保護活動家のグレタ・トゥーンベリさんたち若者の抗議活動が政府や企業に圧力をかけ続けていることなどを挙げ,こう訴える。「希望の光もたくさんある」と。

 プラスチック汚染の現状を打破するには,私たち市民が考え方や生活様式を変えると同時に,市民同士が協力し,「大量生産-対象消費-大量廃棄」という社会システムを変えていく。その先に「未来」があるということだろうか。

(文責:三島勇)