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2021.09.22

プラスチックのアップサイクル~高付加価値と資源循環への挑戦

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 プラスチックごみの処理はさまざまな要素を考慮する必要がある。そのうちの一つ,機械的リサイクルはプラスチックを粉砕して容量を小さくできる。しかし,さらに取り組みを進めるためには,もっと新しい処理のアプローチが必須だ。その中で化学的リサイクルとアップサイクルは,プラスチックの資源の循環を実現し,生産エネルギーと環境影響を最小化する可能性を秘めている。米国デラウェア大学のラシャンダ・コーリー特別教授らの研究チームは科学誌「Science」(2021年7月2日)に発表した論文で示した。
 力を入れるべき手法として提示されているのは,ポリマー(高分子化合物。ここでは主にプラスチックを指す)の化学的リサイクル(ポリマーあるいは分解した単量体(モノマー)を再び原料として使用すること)とアップサイクル(より優れた性質を持つプラスチックの原料として使用すること)だ。分子を的確に選別する戦略の実現と,高分子設計の内容に呼応する循環型リサイクルを促進する化学的手法,ライフサイクルの全体像を変える革新的な工程が実現されれば,プラスチック循環の可能性が高まると指摘する。その上で,ポリマーのアップサイクルの仕組みは,従来の機械的・化学的リサイクルと比べ,転換経路を省エネルギー化し,環境影響を最小限にできるかもしれないという。化学的リサイクルとアップサイクルが産業に取り入れられ始めていることは,心強い兆しであり,プラスチックの運命をよい方向へと軌道修正し,次世代の素材設計の推進などの戦略で欠かせない役割を果たすとみている。

求められる多面的なアプローチ

 チームはプラスチック汚染をどう認識しているのか。
 プラスチックは現代生活に変革をもたらしたことはいうまでもない。その一方,安くて使い捨てできる材料であるため,需要が高まり,わたしたちが依存することが地球規模のごみ危機につながっている。その認識を示した上で,機械的リサイクルがプラスチックの価値や質を下げることも含めて,多種多様なプラスチックごみの処理にまつわる諸課題に対処するには,新たなアプローチが重要と指摘する。
 ではいったい現時点でのリサイクルの課題とは具体的に何だろうか。
 使用済みの「使い捨てプラスチック(SUPs:single-use plastics)」のリサイクルは,再処理前に分別する必要があるから難しい。原料コストから見ても,分別・再処理した原料を再利用するよりも,バージン原料から使い捨てプラスチック包装容器を生産した方が安い。このコストの差は,ごみ処理のインフラが地域でまちまちであること,つまり,ごみ回収やリサイクル,処理施設からの漏洩と一般的な処理施設がないことで発生するプラスチック汚染によって,拡大する。
 使い捨てプラスチックごみは環境汚染の大きな原因の一つだ。これにはどう対応していけばいいのだろうか。
 使い捨てプラスチックには,使用後大量のプラスチックごみになるという難問がある。もちろん,使い捨てプラスチックは,医療技術を発展させ,食品の貯蔵寿命を延ばした。また輸送コストを削減し,有害排出物を低減させた。したがって,使い捨てプラスチックを禁止すれば,世界的に,健康及び社会経済へ影響を与えかねない重大かつ予想外の結果が発生することも考えられる。
 チームが提示する改善案はこうだ。使い捨てプラスチックをできるだけ少なくする政策を立案し,履行する。同時に,使い捨てプラスチックや他のプラスチックが経済的,機能的に重要な用途で利用されている場合は,再利用や詰め替え,リサイクル,アップサイクル,分解あるいは堆肥化を推進させる,としている。

リサイクル用語も整理が必要

 リサイクルに関わる専門用語の扱いにも課題があるようだ。
 リサイクル(recycle)は一般的に,処理済みあるいは廃棄された素材の再利用を意味する。アップグレード(upgrade)は既存の化学物質あるいは原料に価値を付加すること,アップサイクル(upcycle)はアップグレードした既存の化学物質あるいは原料の再利用を,それぞれ示す。そして循環利用可能性(circularity)は,化学物質と原料をバリューチェーン(原材料の調達から製造,物流,販売・サービス,再使用や再利用までの付加価値をつなぐ事業)に供給を途切らせない活動を意味する。しかし,これらの用語にはニュアンス(微細な差異)があり,たとえば,"リサイクル"という言葉は同じでも,文脈によって処理工程とその産物は大いに異なる。
 たしかに,リサイクルを巡る基本的な用語の統一や共通化は,研究から企業活動,行政の施策など広い分野で進める必要があろう。見逃しがちだが非常に大切な部分であり,チームの指摘は適切だと思う。

化学的リサイクルの課題

 リサイクルの中身を大まかにとらえた場合,2つの事例を考えるとわかりやすいという。第一は,ポリマーをその成型品(ボトル,バッグ,部品など)から分離あるいは分解する事例だ。ここでできるポリマーは,親原料の持つ耐久性や引張応力などの構造特性が低下する。このため,リサイクルプラスチックを元の製品を作るために再利用するには,一般的に相当量のバージン(フレッシュ)ポリマーを補う必要がある。特性劣化に対応できる可能性がある溶解法はあるが,現状では溶媒とエネルギーの制約により大規模化が妨げられている。
 第二に,化学的(熱分解または触媒利用)に,あるいは生物学的(酵素の活用)に,プラスチックを小さな分子にまで分解する事例だ。解重合でできる物は,化学原料や燃料,潤滑剤として使われることが普通だが,新しいポリマーの素材として再利用されることはまずない。
 この2例はいずれも,ポリマー由来の炭素の再利用は,潜在的な可能性はあるが,どれも,生産された原料が再び同じ製品に十分に利用されないという点で,本来のリサイクルではないとも言える。ただ,再生したカプロラクタムのモノマーからナイロン6を生産する商業的に成功したアプローチもある。
 次にアップサイクル。プラスチックの資源循環にとってどれほど有用なのだろうか。
 ポリマーごみから機能性を高めるポリマーを作る点が注目されるアップサイクルは,持続可能性の取り組みの意義ある一例であるが,考えなければならない課題がある。(1)最終的な製品が再びリサイクルのインフラに投入される必要があるため,アップサイクルは多くの場合,アップグレードとしてしか表記されないことがあり得る。(2)ある特定のプラスチックごみの処理量は,呼応するアップグレード原料の市場規模と比べて桁違いに多く,一つだけのアップグレードのアプローチでは有用な市場を溢れさせてしまう。(3)アップグレードに関する総費用やエネルギー投入量,環境影響は,バージン原料で同じ製品を作り出す場合よりも大きい可能性がある。
 要するに,いい結果を出すには,エネルギー投入量や費用,環境影響を最小化するリサイクルとアップサイクル,それを補完する方法を一体的に考える必要がある。現行のアプローチの多くは,必ずしも閉じた循環工程(ポリマーまたはポリマーの副産物が環境中に放出されない工程など)になっておらず,その問題は何年も先送りされたままだ。また単種ごみあるいは混交ごみ双方の化学的リサイクルでは,ポリマーと触媒,添加物の三者の相互作用が工程の効率悪化の主原因となっている。

アップサイクルに向けた課題

 プラスチックごみにはさまざまな種類があることからしても,リサイクルのみならずアップサイクルはそう簡単にできるとは思えない。
 化石燃料やバイオマスをもとにした多様な原料からできた異種混合素材のポリマーが含まれるごみの増加のため,もともと低いリサイクル率はさらに低下している。リサイクルが複雑になるのは,多層構造で添加剤入りの製品と混合されたごみが原因となっているが,単種のポリマーごみの処理でもポリマーの組成の多種多様性は見逃すことができない。たとえば,そのようなポリマーごみには,機能性を持たせるための添加剤(発泡剤や安定剤,難燃剤,静電気防止剤,可塑剤など)や着色剤(顔料や染料など),充填剤(ガラスや炭素繊維,シリカ,炭酸カルシウムなど)が含まれているかもしれない。このため,"単一構成要素"からなる生産物のごみでも,酵素や微生物を働かなくさせる物質を含んでいたり,触媒の機能を低下させたりすることもある。さらに,機械的工程から水や土壌に漏出したり,高温下で有害な副産物を生成したり,分別・分離の取り組みを阻害したりするかもしれないのだ。
 したがって,ポリマーの種類(高密度ポリエチレン(HDPE)や低密度ポリエチレン(LDPE)など)だけではなく,原料配合に使われる,ポリマー素材とは別の構成要素を慎重に検討する必要がある。すべてあるいは一部がバイオベースの素材を使ったプラスチック開発が進むと,リサイクルとアップサイクルの状況はさらに複雑になってくるだろう。
 それならば,バイオベースのポリマー(バイオマスプラスチック)なら,リサイクルやアップサイクルに負荷をかけないのだろうか。
 チームはバイオベースのポリマーを2事例に分けて検討している。一つは,バイオベースの原料から作ったモノマーでポリマーを作る例だ。化石燃料由来のポリマーと化学的にはほぼ同じものだ。もう一つは,同様にバイオベースの原料からモノマー,ポリマーを作るが,こちらでは一つ目と同じ機能を持ちながらも化学的には別構造(酸素など,炭素と水素以外の原子の増加)であるものだ。
 一つ目はリサイクルとアップサイクルの工程には機械的な影響を与えないが,二つ目はごみ処理段階でごみがかなり不均質となる。そのため,たとえ生物資源または生分解性のポリマーが,処理の最終段階での扱いが優れている(コンポストが使える機会が増え,ごみに付いた食べ残こしの洗浄必要性が低くなるなど)としても,こうしたポリマーのごみが混合ごみ処理工程に少しずつ含まれれば,既存のごみ処理方法がさらに複雑になってしまう。その結果,原材料組成を絶え間なく進化させなければならない状況を招きかねない。
 言うまでもないことだが,循環のリサイクルやアップサイクルは,化学技術だけではなく,ごみ処理政策にも関わる問題だ。
 上述した科学的論点は,地域によって異なるリサイクル政策の立案検討ともかかわりあう。先進国では大部分のごみはプラスチック包装容器から発生しているが,リサイクル政策(一括混合処分あるいは混合ごみの回収と複合処分など)は国や州,地方自治体でずいぶん違っている。一括混合回収は消費者の自発的なリサイクルとリサイクル率を高めたが,この政策は素材の質やエネルギー投入の面で直接的な悪影響を及ぼす(分別作業が必要になることや多種の成分が混ざった上での処理,不純物混入など)。したがって,一括混合回収はリサイクルとアップサイクル戦略にいい結果を生み出さない。消費者の習慣とごみ管理政策の相互作用からはっきりとわかることは,プラスチックごみ汚染に取り組むための世界的な活動が必要であるということだ。技術経済あるいはライフサイクルの分析によれば,規制の枠組みと産業的なインセンティブ,プラスチックごみのインフラ整備がうまく組み合わされば,将来的にプラスチックごみの価値を高められるだろうとしている。

合成化学技術の現在,未来

 ポリマーを循環,アップサイクルするイノベーション(技術革新)は期待できるのだろうか。
 ポリマーが,再生可能な資源として経済にプラスを与えるには,循環利用可能性を高めていく必要がある。ポリマーのライフサイクルにおける循環利用可能性には,どんな工程も効率100%ではなく,どの工程も不可逆であるという意味で,熱力学的な課題がある。また,ポリマー・リサイクルの循環は,ごみ処理の流れの中に異種の化学物質が混在し,またポリマーの性質が劣化するため,機械的リサイクルだけでは達成できない。化学的手法の関与が必須だ。化学的リサイクルでは,添加剤を効率的に取り除き,モノマーとポリマーを回収・精製するという概念的な機能は示されている。しかし,バージンの小分子からポリマーを合成するよりも少ないエネルギーでリサイクルできる完璧な経路を設計することは,現実にはいささか難しい。

実用化されている解重合法と溶解・沈殿法

20210921_table1_chemical_recycle_methods.png 上記のように指摘した上で具体的な化学的なリサイクル法について検討する(表1)。非常に専門的な部分が多いので要点を示す。
 すでに実用化されているのは解重合法と溶解・沈殿法だ。
 解重合法のうち,触媒を使った加溶媒分解と酵素的加水分解はポリエチレンテレフタレート(PET)の循環利用可能性を実現する契機となった。PETは機械的にも化学的/酵素的にもリサイクルしやすいポリマーの一つである。また,触媒を介した熱分解ではHDPEをナフサに変換する。そのナフサはエチレンポリマーとポリエチレン樹脂の製造サイクルに投入される。熱分解はポリスチレン(PS),ナイロン6の分解にも使われている。
 熱分解工程は,大量なエネルギーを要する上,しばしば汎用のポリマー添加剤あるいは不純物を許容せず,またさまざまな生成物を作ってしまう一方,高価値の生産物が少ない。このことで大量生産への応用が阻まれている。
 一方,溶解・沈殿法は,ポリマーと添加剤を分離する吸着材と,特定のポリマーだけに溶媒となる物質が発見され,現在,いくつかのメーカーがPSなどのリサイクルで使っている。選択的な溶解・沈殿法も,多層フィルム(PEとPETの構成物とそれらの間の溶解性の結合層からなる)を効率的に分解することが知られている。
 しかし,同様な工程がほかの生産物などに適用できるかという課題がある。また,蒸発濃縮と溶液の回収にエネルギーを使う溶解・沈殿法は,化学結合の切断及び化学物質とモノマー原料の精製でエネルギーを使う解重合法よりも,ライフサイクルでのエネルギー消費あるいは温室効果ガスの排出量が小さいかどうかはっきりしない。

新ポリマー化学の誕生

 新しい流れもある。循環利用を高分子設計の一部に組み入れるポリマー化学だ。縮合ポリマーの加溶媒分解あるいは加水分解の根底にある付加・離脱反応(縮合反応)に関するエネルギー調整をつかさどる原子結合や触媒の応用の手法は,ポリマーの重合鎖を解き,直線状のモノマーにする強力な方法として登場している。ポリジケトエナミンをベースにした新ポリマーだけでなく,従来からあるポリエステルやポリカーボネート,ポリイミンの循環型の化学的リサイクルが進んでいる。特に,混合ごみ処理段階の雰囲気温度でポリジケトエナミンは加水分解するため,ライフサイクルアセスメントで見ると,モノマーの回収と精製による温室効果ガスと投入エネルギーの量が一次生産時より少ない。
 しかし,最終用途で求められる特性を作り出すため,何種類ものモノマーを共重合でつなぐため,できあがったポリマーは複雑さを増す。このような新たなポリマーの導入見通しからすると市場の前途は不透明だ。最終用途で十分な機能を発揮する製品のポリマーと添加剤の調合にこれまで数十年かかっているからだ。
 また,たとえバイオ由来の循環型プラスチックを支える市場の成長を目指していくにしても,設計にリサイクルを組み込むという考えが,樹脂生産に必要な原料を化学物質から持続可能なバイオ系原料への転換へと一足飛びに展開していくかどうかも不確実だ。

注目されるイノベーション

 さらに,ポリマーに高機能と求められる物質特性を持たせる技術革新的な変革が注目されている。炭素-水素結合は,化学選択性(ある化学反応がそれと同時に起こりうる他の化学反応より優先的に起きること)を活用して作るPSやポリプロピレン(PP)のような商品用ポリマーへ拡張していくという戦略の先陣となった。炭素-水素結合の化学選択性によって,プラスチックごみのアップグレードが容易になり,互換可能性が向上し,特定の空間配列が可能となり,従来できなかった方法による共重合体の開発が進んだ。
 このアップグレード法は主に,少ない官能基を使い,ポリマー鎖の分解なしに原料の特性(接着力,表面張力など)を大幅に修正でき,その結果,共重合にかかわる合成の煩わしさ(モノマーの反応性の考察など)なしに機能性原料を生み出せるという有利な点がある。芳香族ポリマーではすでに取り入られている。
 では技術革新的なリサイクルとアップサイクルはいいことばかりなのだろうか。
 こうした高機能化は混合ごみつまり汚れたごみ処理の中でも変質せずに維持されるだろうか,アップグレード原料は現状でも従来のリサイクル法かつ/または分別法に課題があるのではないか,リサイクルとアップサイクルが容易になるように設計されたポリマーは,分解メカニズムによって有害な副産物を生み出すだろうか,あるいは使用期間に影響を及ぼす予期しない欠陥メカニズムがあるだろうか。これらの疑問は残されたままだという。

世界的公平性を求めて

 先進国はプラスチックごみを途上国などに「移転」させることが難しくなり,自国内処分・処理を迫られている。
 中国の2018年のプラスチックごみ輸入禁止によって,先進国の多くはこれまでとは違う方法を取らざるを得なくなった。アメリカやドイツ,英国,日本は当初,ごみの積み荷をベトナムやタイ,マレーシアに向け直したが,各国当局は輸入の上限を設定する制限規定で対抗した。インドネシアは,廃棄物の受け入れ次世代中心地として登場したが,作物や海洋生物,大気の質への環境影響が増大している。
 世界的にプラスチックごみの貿易規制が敷かれたことで,多くの国や州,地方自治体は,地域内に積みあがっていくごみにどう対応するかを決めなくてはならなくなっている。財政力に乏しい自治体は,大きな重荷を負うことが増え,これらの自治体が受け入れるプラスチックごみの毒性という遺産は,今後プラスチックごみ処理をするための地域を選ぶ上で長きにわたって影響を与えるであろう。
 このような問題は放置できない。アルミニウムやガラスの産業が自治体とともにリサイクル・インフラの開発に貢献したのとまったく同じように,プラスチックについても同様の行動をとるべき時期に来ているようだ。EUはこの点に関して積極的である。使い捨てプラスチック禁止や拡大生産者責任(生産者が製品の生産・使用段階だけでなく,廃棄・リサイクル段階までの責任を負うという考え方。具体的には,生産者が使用済み製品を回収,リサイクルまたは廃棄し,その費用も負担すること)が履行され,物流管理と説明責任のための実のある協力,さらに資源回収施設の技術革新と能力向上に刺激を与えている。しかし,アメリカでは,原料と生産物の持続可能性を改善しようという一般的な合意があるものの,地方自治体や州,国のレベルで,さまざまな逆風が吹き,これまでに多くの立法活動が妨害されている。バージン樹脂に課税する,また同じ条件のもとで樹脂生産にリサイクル品を混在させるようにするための経済的なインセンティブを用意する,といった考えが広がっている。たとえば,イギリス政府は,少なくとも30%のリサイクルプラスチックを含んでいないプラスチック包装容器を国内において生産,輸入する場合には新たに課税するとしているが,この措置により技術革新と変革が実際に進んでいる。こうしたやり方でリサイクル率を上げ,資源の乏しい地域で処分場に置かれたり燃やされたりするごみの量を減らせれば,有意義な成果を得られるだろう。プラスチックリサイクルに関連する雇用創出も持続可能な経済的利益となりうる。

持続可能な未来を目指して

 チームは最後に次のように主張する。プラスチックごみのジレンマは,世界的な課題で,解決するには,緊急的介入と,大きな投資で持続可能性を支える産業界,学界,金融界,政府部門が一致団結することが必要である。解決策を導入する際には,プラスチック技術の発展が人々の生活をどう向上させたかという評価と,持続可能な生態系に必要な循環という考慮対象及びライフサイクル管理計画とのバランスを取らなければならない。
 現行手法の多くでは,リサイクルとアップサイクルの価値ある提案計画の一面(ごみ管理や工程設計,生産戦略,触媒の技術革新,合成経路など)にばかり注意が払われる傾向にある。たしかに,ポリマーのアップサイクルは問題解決の重要な要素ではあるが,プラスチック・ジレンマのすべてに対処する「決め手」ではない。ポリマーのアップサイクルはプラスチック循環経済(削減・再利用・リサイクルの原則の多様な形態を含む)の必要な一部だ。ただ,持続可能な未来をもたらすためには,公正な分析と消費者行動,地域の要望,政策改革,ライフサイクルアセスメント,インフラの調整,サプライチェーン(供給網)の連携,をまとめ上げていくことが欠かせない。

技術は「希望の光」かもしれないが,それだけには頼れない

 研究チームが取り上げた化学技術には「希望の萌芽」を期待させるものがある。ただ,現段階ではいずれも一長一短があり,特にエネルギーの消費と温室効果ガスの排出が大きく,なかにはリサイクルそのものを複雑にしてしまい,リサイクルの仕組みに悪影響を及ぼす可能性が低くないものもある。このような課題をクリアして技術を改良・開発していくには,少なくとも現在使われているプラスチックの技術が確立してきた数十年と同じくらいの時間がかかるとみるのが相当だろう。しかも,化学的な技術開発には,実現しても有害な副産物の発生や環境への負荷など,思わぬ悪影響が伴う場合がある。つまり,チームが示唆する通り,現状では化学的な技術はプラスチックごみ危機の「救世主」ではないということだ。
 プラスチックは,食品包装容器のみならず,自動車製品や医療製品などにも浸透し,現代の生活・福祉にはなくてはならない存在となっている。たとえば,医療面を見ても,新型コロナウイルス禍において,ウイルスの防御効果の高い不織布マスクや医療用ガウン・フェースシールドなどのプラスチック製品なしには人々の健康が守れない状況となっている。医療用プラスチック製品にはおいそれと代替品も見つからない。
 特にプラスチック依存度が高く,多大な恩恵を受けている日本などの先進国では,需要と依存度が高まりつつある発展途上国に先駆け,化学メーカーや大学,政府が協調して,プラスチックに関わるリサイクルやアップサイクル,「環境に優しい」代替品などの技術開発を進めていく「使命」があるように思う。いや,「義務」といってもいいかもしれない。環境への負荷がより小さく,人体にも安全で,「持続可能な社会」を支えるもの作りの手法として脚光を浴びた「グリーンケミストリー(緑の化学)」を,プラスチック汚染解消のためにもさらに推進したい。一方,技術開発が実を結ぶまでの間は,医療用など必要不可欠であり,かつ代替品がないものを除き,プラスチック使用を極力減らし(禁止措置の拡大など),リサイクル意識(徹底した再使用,再利用の生活への浸透など)を高めていくことも,プラスチック汚染を抑制する必要条件だろう。「どうにかなる」という自己都合的な考え・行動では,「プラスチックごみ危機」を乗り切れないと感じるのは私だけだろうか。

(文責:三島勇)