プラスチック汚染防止には拘束力ある国際協定が不可欠~欧米などの専門家が指摘し,試案を提示
「削減」「循環」「除去」が国際協定のキーワード
地球上に広がるプラスチック汚染。それを抑制するには,プラスチックのライフサイクル(生産から使用,廃棄後まで)をカバーできる拘束力のある国際的な協定が求められる。汚染抑制協定には核となる3つの目標-プラスチックの削減と循環,除去-が必要である。ドイツのシンクタンク「アデフィ」のニルス・サイモン氏らの研究者のチームがそうした意見と協定の試案を科学誌「Science」(2021年7月2日)を公表した。プラスチック汚染に関わる現行の国際的な協定の内容と限界を示した上で,オゾン層破壊や地球温暖化の抑制策の国際協定を参考にしながら,バージン(再生でない)・プラスチックの削減やプラスチックの安全性の高い循環,自然環境からのプラスチックの除去という目標を実現するためにプラスチック汚染抑制の国際協定は拘束力のあるアプローチとしなければならないと訴えている。
まず,チームはプラスチック汚染とその対応について,現状をどうとらえているのだろうか。以下がその現状分析だ。
国際社会はプラスチックのゴミ問題を海洋におけるゴミを中心にして捉えていた。しかしプラスチックは今やますます,陸上生態系や大気などすべての環境中に見つかり,肺や胎盤など人体からも検出されている。このため,原料物質の抽出から,過去から今に至るまで積みあがるプラスチック汚染遺産まで,広範にわたるプラスチックのライフサイクルに対応する,法的拘束力のある新たな国際協定を求めたい。このアプローチだけが国境を越えて広がり,社会的,環境的,経済的に重大な影響を及ぼすこの問題に対処できる。またプラスチックのライフサイクル全般を対象とするため,世界のバリューチェーン(価値を生み出す連鎖。ここではプラスチックの原料や製品の生産・販売,回収・リサイクルなど生産からゴミ処理までのライフサイクルに関わる企業・組織を指す)を通して適切な費用と利益の公平な分担が実現できる。
生物多様性保護や健康,気候変動,人権に関する市民活動団体や社会組織は何年もの間,拘束力のある世界的なプラスチック協定を求めていた。2017年になって国連環境総会(UNEA)は,海洋ゴミとマイクロプラスチックに関する「臨時公開特別専門家会合(AHED:プラスチック汚染抑制についての選択肢を議論している国際的な専門家のグループ)」を設立した。現在,少なくとも79か国が法的拘束力のある国際協定の実現を支持している。ペルーとルワンダは2021年5月,2022年2月開催予定のUNEAで,政府間交渉会合を設置して協定の締結を求める決議案を提案すると発表した。
チームは交渉のスタートはもっと早く始まってしかるべきだったと述べる。理由はこうだ。2019年にはバージン・プラスチックが3億6800万トン生産されている。現在のプラスチック抑制策はプラスチックの生産とゴミの予想生産量の増加ペースから見ると不十分と予測される。プラスチックの新規生産に伴う二酸化炭素の排出も増える。実際,バージン・プラスチックの生産増加によって,2050年までに地球の平均気温の上昇を産業革命前の水準と比べ1.5度を下回るように抑えるのに許された,全世界の炭素割り当て(carbon budget)の残された分の10~13%が費消されるとみられている。プラスチック汚染は,文化的遺産はもちろん自然環境や生物種,生息地に重大な脅威を与える。詳細にはわかっていないが,社会的悪影響としては人々への健康被害や観光業に依存する地域に与える経済的コストは相当なものになる。こうした問題に対処するには革新的なアプローチが必要なのだ。
革新的な方法である,野心的かつ拘束力のある国際協定のあるべき姿を次のように説明する。
国際協定は,プラスチック汚染の影響を取り除き,現状のままのペースで増える生産の影響を抑えるものでなくてはならない。プラスチック汚染の撲滅と,プラスチックがライフサイクル全般で人間や環境に害を与えないことが理想である。その実現には協定締結の交渉で規制の範囲と協定の構成を決めていく必要がある。また,世界的あるいは地域的(ここでいう「地域」は欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)などの国家群を指す)な既存の枠組みが取りこぼしている隙間をどう埋めていくのか,プラスチックのバリューチェーンをどう変えていくか―とくに"アップストリーム"(上流)の設計や生産の段階-が注目される点だろう。交渉には利害関係者-政府から生産者や製造者,研究者,市民社会組織,消費者,そしてゴミ収集者など非正規部門までの人々-が参加し,実現に努めることが基本である。
現行の国際的な規制の内容と限界
ゴミや有害物質に関する国際的な協定はすでに存在している。それらがカバーするもの,欠けているものは何か。
汚染の現実と抑制策の実態が乖離している2側面から考えるとわかりやすい(表1)。
第一にプラスチック汚染の発生源-とくに陸上源-を包括的して統治する世界協定の欠如だ。現行協定のほとんどは,ゴミの発生源が大部分,陸上であるにもかかわらず,海ベースのものに限られている。たとえば,ロンドン条約議定書(海洋汚染の防止を目的としてゴミの海洋投棄の禁止などを規定)やマルポール条約(海洋汚染の防止を目的として規制物質の投棄・排出の禁止などを規定)は船舶から海へのゴミ投棄を禁止する。拘束力のない宣言や活動計画は海洋プラスチック汚染の削減(たとえばSDGs14.1=注:2025年までに,海洋堆積物や富栄養化を含め,特に陸上活動からの汚染による,あらゆる種類の海洋汚染を防ぎ大幅に減らす)を目的としている。地域的な海洋条約などは海盆規模でゴミに対処することに限定されている。G7やG20の行動計画やUNEAの議定書でも海洋ゴミ問題が焦点だ。
国連環境計画(UNEP)では海洋プラスチック汚染に関する20の国際的な手段また34の地域的な手段の再調査を行い,バラバラな既存の統治の状況では海洋プラスチック汚染に対処できないと結論付けた。
第二にプラスチックのライフサイクル全般をカバーする世界的な統治協定がないことだ。従来の協定の多くは,プラスチックがゴミとなれば適用されるが,設計や生産,使用の段階では適用されない。これは大きな問題だ。なぜなら生産されている全プラスチックのたった21%は理論上リサイクル可能とされているが,実際にはほんの15%しか適正にリサイクルされていないからだ。ゴミ段階のプラスチックの貿易はバーゼル条約(有害廃棄物の輸出及びその処分の規制に関する条約)が規制の対象としている。効率的にリサイクルでき洗浄・分別されたプラスチックのゴミは自由に貿易できるが,有害な汚染ゴミは輸入国の「インフォームドコンセント」(事前に輸出国がゴミについて十分に説明し,輸入国の承諾を得ること)が必要だとしている。残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約は,生産段階の規制ではあるが,プラスチックの添加物以外の化学物質を限定的に禁止しているだけだ。したがって,プラスチックに関わる1500以上の化学物質が確認されているにもかかわらず,ほとんどの添加物は国際協定でも包括的な規制がされていない。同様に,マイクロプラスチックも,世界的な規制でなく,国や地域ごとの制度でつぎはぎ的に規制されている。
現在行われている抑制への対応・手段はザルで水を掬っているように思える。チームは上記のように現状を踏まえ,こう新たな国際協定の試案を示す。
プラスチック汚染を測定して効果的に抑制・管理する,法的拘束力のある国際的な統治手段が必要である。再生不可能なバージン原料の生産増大と,安全に再利用・再生利用できるように設計されていないプラスチック製品-化学物質で汚染されているかもしれない-の製造,この2つからすでに統治欠如の問題が始まっている。製品売買時でも,小売業者と消費者は製品の含有化学物質の情報が提供されず,矛盾や曖昧さのある内容のラベル表示(たとえば,堆肥化可能や生分解性,再利用可能)に出くわす。使用中に有害性が懸念される添加物やマイクロプラスチックが放出され,消費者の健康に悪影響を与えるかもしれない。自然環境中のマクロプラスチックとマイクロプラスチックのゴミが急増し,目に付く事態となっていることは言うまでもない。
こうした統治の欠如による悪影響に対してはどう対応すればいいのだろうか。
チームは,国際的なプラスチック汚染防止協定を締結し,その中に3つの核となる目標-(1)バージン・プラスチックの生産・消費の最少化(2)プラスチックの安全性の高い循環の促進(3)自然環境のプラスチック汚染の除去-を置く必要性を訴える。
削減の手本はモントリオール議定書とパリ協定
目標(1)にはモントリオール議定書が手本になる。モントリオール議定書は,オゾン層破壊物質(冷媒の材料として使うフロンなどの化学物質)の最大生産量を定め,そこから安全な水準まで少しずつ減らしていくことを規定している。同じように,パリ協定は世界の平均気温の上昇を抑えるために二酸化炭素などの排出量の目標値を決めている。気温上昇は温室効果ガス排出を大幅に減らせば抑えることができるからだ。前者は材料物質の生産に,後者は生産の結果として排出される温室効果ガスを中心に,それぞれ上限を定めている(表2)。
モントリオール議定書やパリ協定のように,生産と消費に上限を設けることは強力な手段となる。上限を設けることで,特定問題の原因となっている生産と消費を抑制する活動を促し,自然により優しい代替物を使うように誘導することができる。しかし,生産と消費の上限量を決定するには,汚染の現状と安全な水準についての正確な情報,環境的に問題がなく費用効果が高い代替物質などが必要だ。
目標(1)が合意されれば,政府から,生産者,消費者など,バリューチェーンに関わる企業・組織などに明白なシグナルが伝わる。悪循環を好循環に変えられるのだ。製造者はプラスチックの持続可能性に向けた努力を重ね,バージン・プラスチックの生産を減らす。技術革新と安全性向上は新しい市場機会をもたらす。プラスチック生産能力の拡大への投資増を思いとどまらせ,温室効果ガス排出も抑えられるだろう。
気候危機の緊急性と2050年までの炭素排出実質ゼロの必要性から考えて,プラスチックの生産と消費の削減目標はそれらに合わせるべきだ。すなわち,バージン・プラスチックの使用を2040年までに段階的にゼロに近づけ,プラスチック製品のほとんどを再生材料から作る。安全かつプラスチック製でない代替品が存在しない医療用品のような物だけが例外として許される。
プラスチック汚染抑制協定では,必要性もないのに-つまり安全で手ごろな環境に優しい代替品があるのに-プラスチック(バージンあるいはリサイクル)を使った製品を漸減そして最終的に禁止する方法が必要だろう。そうすれば代替品の開発と使用が促される。たとえば,EUは使い捨てプラスチック指令(The Single Use Plastic Directive)で使い捨て用品を禁止している。プラスチック汚染抑制協定においても,同様の禁止措置の国際基準といった適切な規定を設けるべきだ。また生産物にリサイクル材料の使用を増やしていけばバージン・プラスチックの需要をさらに減らすことができる(表2)。
プラスチックの循環が生む多様な利益
目標(2)の設定は,リサイクル設計を促し,リサイクル率を改善し,リサイクル材料利用を推進する。有害化学物質を除去すれば安全性の高い循環が達成できる。再使用と詰め替えシステムは,プラスチック汚染の相当量を除去するからリサイクルより優先されるべきだ。
目標達成のための手段を取っていくことで,プラスチックのバリューチェーンが変革し,生産者や小売業者が競争優位となり,新しい仕事が生まれ,消費者と生態系が健全な利益を受けるだろう。こうなるためには協定で,(1)プラスチックの設計とリサイクルの可能性の技術基準(2)化学物質の情報共有(3)製品の安全性と持続可能性の整合基準(4)製品内容物と持続可能性の透明性を担保する基準(5)プラスチックのゴミとしての基準(6)プラスチック製品の循環に関する国際規格,を規定すべきだとチームはいう。
(1)ではフタレート(フタル酸エステル)とビスフェノールなどの有害添加物を段階的に廃止していく。人間の健康確保や野生生物への悪影響の低減にも資する。(2)は有害性が懸念される添加物の情報をバリューチェーンで共有するルールだ。(3)はアップストリーム(上流)段階で,生産者らに公平な条件を保証し,これとは異なる基準を取らせないようにするためのものである。(4)ではミッドストリーム(中流)段階において製品情報を共有しラベル表示の内容を保証するなど,消費者と小売業者に透明性の高い,必要な情報を届ける。消費者団体にはこうした基準を守らない生産者や小売業者を追及する力を与える。(5)はダウンストリーム(下流)段階において,「ゴミ」の基準を明確にすることでゴミの残存価値を生み,リサイクル業者,特に低所得の労働者の利益(非公式部門で投資,雇用機会の増加,生活向上)につながる。(6)はバージン樹脂と添加物を減らすことに密接に関連する。EUは2030年までに域内でプラスチック包装容器のすべてを再使用あるいはリサイクルできるものにすることを目指している。「循環のための設計」の技術革新や再使用と詰め替え,修理,リサイクルの仕組みを促進する。
プラスチック汚染除去には官民への支援制度が不可欠
目標(3)は陸上と水路,海洋に蓄積されたプラスチックを安全に除去し,持続可能な処理をすることである。このために,プラスチック汚染抑制協定では(1)汚染防止目標の設定(2)資金援助制度,を定めるべきだ。
(1)は,プラスチックが最終的に自然環境に行き着かないようにするために置かれ,国や地方自治体で実行される。(2)は発展途上国のゴミ管理サービスと先進国・発展途上国の水路などの清掃を援助する手段だ。EUの使い捨てプラスチック指令ではゴミの清掃コストをまかなうためにタバコのフィルターと漁具に拡大生産者責任を取り入れている。見習うべきだろう。清掃のメリットは,都市部で水路や排水溝,下水道を詰まったままにしておくと洪水のリスクが高まり,疾病が蔓延してしまうという問題を防ぐことにある。都市部以外では,こうしたメリットがないので,清掃の資金援助や生産者のカンパ要請が必要となる。こうした資金によって,市民科学の調査や清掃キャンペーンが実施できるし,ゴミとなったプラスチックを生産された国に送り返すこともできる。
国際協定の実行と成果を追跡する
協定内容の着実な実行をどう検証するか。協定には(1)手続き上の義務(2)再調査(3)法令遵守メカニズムが必要だとする。
(1)の義務は2つある。一つは,国ごとにプラスチック汚染防止計画を定めて進展・実行し,定期的に最新な内容に更新する義務だ。防止計画は,3つの中核目標と一致し,前向きな内容とし,目標のために取るべき対応を網羅するようにする。また既存の政策と法律などと一体化したものともすべきだ。さらにプラスチックの漏洩源を明示して効果的な抑制ができるようにする。もう一つは目標の実行と成果を報告する義務だ。他の国際協定に習えば,定量的・定性的なデータを記入する書式を使って報告することが考えられる。プラスチック汚染防止協定の専門の事務局を設立し,事務局が報告についてバックアップをする。
(2)は,協定の有効性を示すために,各国の報告を透明性のある形で国際的な再調査ができるようにすることである。(3)は,各国に協定の実行を迫り,公正な条件を設けるにも欠かせない。法令遵守をしない国からのプラスチック製品の輸入を禁止する権利を明示してもいい。なぜならこうした国からの輸入を許してしまえば社会的,環境的,経済的な重大なリスクを引き起こしてしまうからだ。
発展途上国への支援メカニズムの必要性
協定の内容を実行していく手段を後押しする仕組みも必要となるが,チームは次のように指摘する。
支援メカニズムは上記で示してきた手段の効果を高める。各国の国内予算と民間資金からの資金援助は,法律や社会基盤,技術,能力の構築に資金を提供するために必要だ。発展途上国を支援するために特別の資金支援メカニズムを導入する。地球環境ファシリティ(Global Environment Facility:世界銀行に設置されている信託基金)のような既存組織が運営するか,あるいは新しい基金とするか,が考えられる。同ファシリティに任せれば,同ファシリティの重要な分野-化学物質やゴミ,気候変動-との相乗効果を期待できる。問題点は任意拠出金に依拠していることだ。新基金設立が有利な点は,モントリオール議定書のための多国間基金(Multilateral Fund)を習って,国連の資金分担率-各国の「支払い能力」に合わせた資金負担-に則って義務的な拠出金を基にできることだ。それに加えて任意の基金を設立し,プラスチックとプラスチック製品のメジャーな生産者に拠出を要請することも可能だ。さらに,「クリアリングハウスメカニズム」(生物多様性に関わる多数の情報について互いに持っている情報の交換・流通を促進していくためのメタデータ検索システム)は,既存の基金・プログラムの情報を発展途上国に伝えることができる。
プラスチック生産者の拠出金による基金の設立は,「汚染者負担」原則に合致する。協定において,消費者ではなく,プラスチック汚染に責任がある産業界に負担させるよう国を支援していくことで公平性を担保することが重要だ。国内生産のバージン・プラスチックに対する課税のように,アップストリーム(上流)に的を絞った市場ベースの手段の利用を促せば公平性の担保は得られる。これで基金の資金ができる上,プラスチックの過剰使用も抑制されるだろう。理想を言えば,協定上の義務-環境にやさしい代替品の研究と開発,利用を援助することなど-を実行するために税金を充てられるといい。協定内容の実行を担保するためにはプラスチック規制当局を置くべきだろう。
協定を支える枠組みやメカニカル
プラスチック汚染防止協定だけで必要な面を網羅することはできない。活動を支えるための枠組みも必要となろう。この枠組みに,決定や付属文書,議定書-設計と生産,再使用,リサイクル,処理,回収についての技術基準とガイドラインが含まれる-を採択するため締約国を招集できる統治組織を置く。科学的,技術的な分野の付属組織-プラスチックの安全性の高い循環基準を明らかにし,データ収集に関する整合的な方法を開発,促進する-も必要だ。
最後になるが,幅広い社会的関係者と制度を嚙合わせるためのメカニズム-とくに非政府組織と地方自治体の活動を促進させる利害関係者の「参加プラットフォーム」-が必要である。このプラットフォームは,オンラインで非政府組織と地方自治体の関係者が世界と地域のハイレベルイベント(国際機関や各国政府の高官や地域の代表など「高いレベル」の会合・行事)や技術の意見交換などを行うことで,組織や自治体の活動を後押しする。ここで課題となるのは,利害関係者に非公式部門-たとえば,発展途上国におけるゴミ管理制度の主要構成員であるゴミ収集者(ウェスト・ピッカー)-を含めるかどうかだろう。
プラスチック汚染防止協定への次のステップ
プラスチック汚染防止協定は実現できるのだろうか,できるとしたらいつになるのだろうか。今後の行方が気にかかる。チームは次のように言う。
政府間交渉会合を始めるかどうかの決定はUNEAの役割だ。UNEAの意思決定会議の開催は2022年2月に予定されている。新しい国際協定が,交渉を経て発効し,実効性を持つようになるには何年もかかるだろう。したがって,それまでは地域と多国間の既存制度で汚染抑制の活動を進展・強化していく必要がある。けれども各国政府は既存のアプローチをしのぐ野心的な取組みをする必要がある。新しい国際協定は,コストを伴うだろうが,環境的にも社会的にも経済的にも莫大な利益を生み出すだろう。
プラスチック汚染は「第二の地球温暖化問題」?
思うに,プラスチック汚染は,オゾン層破壊や地球温暖化のような地球規模の環境問題と同じ構造を持っている。プラスチックも,オゾン層を破壊する化学物質も,二酸化炭素などの温室効果ガスも,人間が世界中で「現代的な」生活・活動をする限り,先進国や発展途上国で量的,質的に差異はあるものの,漏出・排出され国境を越えて地球全体に広がっていく。
ただ,この3つの地球環境問題を抑制・解消していく困難さはいくぶん異なる。オゾン層破壊の原因とされるフロンなどの化学物質は,生産箇所,利用製品が特定されやすく,管理や規制が比較的しやすい。一方,主な温室効果ガスである二酸化炭素は排出源が無数にあり,特定することが難しい上,効果的な削減方法は今のところ,人類の生活様式(ライフスタイル)や活動を大幅に見直して,制限/転換する以外にないようだ。フロンなどのオゾン層破壊物質には代替物質があるが,地球温暖化を防ぐ革新的な技術・方法はまだ確立されていない。温室効果ガスを抑制するには,非常にやっかいなことではあるが,化石燃料を使う発電所を減らしたり(同時に自然再生エネルギーを増やしたり),ガソリン自動車を電気自動車に変えたり,エネルギーを節約したりするなど,とにかくできることを地道に積み重ねていくしかないのが実情だ。
プラスチック汚染を考えると,オゾン層破壊問題よりも地球温暖化問題と似ている面が多い。二酸化炭素と同じように,現代文明ではプラスチックを完全にシャットアウトすることは不可能だ。たとえば,プラスチックを完全になくすと食料品の貯蔵期間が短くなり,食品ロスなどムダが増す。医療面では衛生環境が悪化し医療の質の低下は避けられず,考えるまでもなく健康被害は甚大となるだろう。
しかし,だからといって,プラスチック汚染を看過していいはずはない。サイモン氏らは,オゾン層破壊や地球温暖化の問題で取っている/取ろうとしている国際協定を手本としながら,プラスチック協定の必要性を訴え,具体的な方法を提案している。確かに,その提案を実現するには国家の「善意」に大きく頼らなければならず,多分に理想主義(ユートピアニズム)的であるように見える。しかし,科学的に解明されてきたプラスチック汚染の実態を現実主義(リアリズム)的な視点から見ると,汚染の抑制には各国の協調が欠かせないことは言うまでもないだろう。実効性のある国際協定の締結が遅れれば遅れるほど,抑制・解消策は一層難しくなる。それだけは地球温暖化防止と同じ道筋を辿ってもらいたくない。
(文責:三島勇)