Columns & Reportsコラム・レポート

2022.12.19

美しい海岸を未来に残すための行動を考えるワークショップ

 東京大学生産技術研究所のマイルス・ぺニントン教授らの海洋観測ネットワーク(OMNI)チームは1210日,神奈川県逗子市で,海洋プラスチックなどのごみがない美しい逗子海岸(ブルーフラッグ認証(*1))を未来の世代に残すための指針を作ろうと,逗子市と協働し,市民や同市職員,研究者らが参加したワークショップ(体験型講座)を開きました。

 このワークショップは,東京大学と日本財団による海洋プラスチック研究の一つとして,同チームが中心になって実施している「逗子×東大 未来ビーチクリーンラボ」の一環です(2)OMNIの装置テストや子供向けイベント開催などで関係のあった逗子市では過去3回のワークショップが開催されましたが,今回はその集大成としてクリーンな逗子海岸を維持していく実践的な方策を模索しました。チームは,20231月には海岸清掃に役立つプロトタイプ(試作品)を創り,逗子海岸でそれらを使ったフィールドワークをおこなう計画です。

 ワークショップの冒頭,チームの木下晴之・特任助教は開催趣旨をこう話しました。「逗子海岸では30年以上にわたってビーチクリーン活動が続けられています。活動をさらに発展させて,未来の世代にきれいな逗子海岸を残していくために,私たちがどう行動すればいいのか―それをルールというか,ガイドラインというかを別にして―を考えてもらいたいと思います」

 

 前回のワークショップで指摘された,海洋ごみの不明確な分別ルール,ごみ箱設置の可否,ビーチクリーンのルールの周知などをもとにして作成した「逗子海岸ビーチクリーン」のガイドライン案を,チームの白濱雄太・外部デザインストラテジストが提案しました。

 提案は5つありました。概要は次のとおりです。

1.「拾うものと拾わないもの」
「拾う」のは,一般ごみ,ごみがからまった自然のもの,建築資材や流木等大きな木材。「拾わない」のは,海藻や貝殻など自然のもの,魚やヒトデなど生きもの,人の荷物。

2.「拾ったごみの捨て方」
拾ったごみは燃えないごみとそれ以外に分別して,海岸内公衆トイレ裏のくずかご脇に置くなどする。

3.「ビーチクリーンの分別」
海岸のごみは家庭ごみと違い,砂や塩分などの汚れによってリサイクルできないものがあり,家庭ごみと分別が異なるため注意しましょう。

4.「危険性のあるもの」
海岸には触れると危険なものもあります。カツオノエボシや注射器,スプレー缶,生きものの死骸などはいきなり手で触れず,慎重に対処しましょう。

5.「逗子海岸のごみのゆくえ」
分別されたごみはごみ処理業者が処理場に運びますが,塩分や砂が混ざっているため,ほとんどが焼却されます。逗子海岸はボランティアや事業者協力の上できれいに使うことができています。海岸を使う人や支える人,それぞれが少しでも快適になるよう次の人の気持ちを考えながら使いましょう。

 

 この提案について,参加者は4つのグループ(ABCD,各34人)で話し合い,その結果を全員で共有しました。それぞれのグループから提案に関する課題,アイデア,意見,疑問(いずれも概要)が出されました。

(Aグループ)
・ごみ置き場への捨て方のマナーも問題としてある。
・市外から訪れる人専用のごみ袋を作り,そこにごみの拾い方などを明示し,簡単に手に入れられるようにする。

Bグループ)
・提案された内容は細かすぎるような気がする。もう少し絞り,イラストを使ってわかりやすくできるのではないか。
・イベントで出たごみは事業者が回収し,訪れる人は原則ごみを持ち帰ってもらう。

(Cグループ)
・提案はごみ回収の方法やごみの危険性をわかりやすくしめしている。
・訪れた人が出したものと漂着したものをまとめて拾ったごみは,「同じごみ」なのだろうか。

(Dグループ)
・海岸利用者のマナーをどうするかたとえば,罰金をきちんと課し,「市民が見ています」といった看板の設置。
・海岸にあるごみ箱の分別がわかりにくい。
・ごみ捨て場の周知が不十分。

 

 こうした得た課題やアイデアなどを受け,美しい逗子海岸を守っていくには,ガイドラインを含め,自分たちが何をしていく必要があるのかを話し合い,発表しました。概要は次のとおりです。

(Aグループ)
・ビーチクリーン参加した人たちガイドラインに沿った活動を続けてもらうことが重要である。
・訪れる人だけでなく逗子市民もビーチクリーン活動に参加してほしい。
・ビーチクリーンをしている人々にごみ拾いの活動内容やコツをインタビューして,その内容を公開したり,啓発ポスターを作成したりする。

(Bグループ)
・海岸を清掃する人たちや海岸を利用する事業者・人々をつなぐ,オープンな「ビーチクリーン・ネットワーク」を創り,海岸清掃やごみ処理,ビーチクリーン活動などの情報を共有・発信する。

(Cグループ)
・「逗子海岸」をさらに有名にして,地元の人がプライドを,また訪れる人たちに関心を,持ってもらえるようにする。
・逗子海岸で「あいさつ」を励行し,利用者が美しい海岸に理解,親近感を持って「逗子海岸ファミリー」になってもらう。
・資金をかけて,ごみ袋やごみ箱に海岸のシンボルになるようデザインする。

(Dグループ)
・ポイ捨てをなくすため,「逗子海岸クリーン教育」を学校教育に取り入れていく。
・海岸を自分の庭,遊び場であるととらえてもらうため,ごみは持ち帰ってもらう。

 

 発表後,参加者全員がビーチクリーンの先に実現したい逗子海岸を一言で示しました。いくつかを紹介します。

 「イケてるビーチ」「世界に誇れる逗子海岸」「安心,安全な逗子海岸」「我が家」「日本一クリーンな逗子海岸」「海も人も美しい逗子海岸」「帰ってきたい場所」。ちなみに筆者はこう妄想しました。「ゴッホが生きていたら...描きたくなる海岸」

 最後に,木下特任助教は,これまでのワークショップやフィールドワークで得られた意見やアイデアなどをもとにして,ビーチクリーンに役立つプロトタイプを作って,みなさんに実際使ってもらう,まとめの段階に来ていることを指摘したうえで,「ルールかガイドラインかはともかく,ネーミングは重要です。それとともに,そうしたものをどうまとめていくか。しかし,まとめたからといって,これで完成したというわけではないと思います。実践と考えを繰り返し,変化させ続けてください。私たちチームは,お手伝いはします。みなさんには主体的に活動を続けていってほしいと思っています」と述べました。

(ライター:三島勇)


*)注

  1. ブルーフラッグ認証: 国際NGO FEE(国際環境教育基金)が行うビーチ・マリーナなどに関するの国際認証制度。水質や環境教育と情報,環境マネジメント,安全性・サービスの4分野,30数項目の認証基準を達成すると取得できる。
     https://blueflag-japan.org/blueflag/   20221219日閲覧)
  2. 関連記事:
    逗子市と共同でワークショップを開催しました
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2022/11/post-42.html
    FSI海洋プラスチック研究:テーマ3.プラスチックごみ削減方策に関する社会科学的研究
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/research.html#theme03