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2022.10.12

環境と持続性を考える: ペットボトルの再資源化をさらに進めるには

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ペットボトルの再資源化には,使用済みボトルの再資源化に消費者が協力することが大切。協力するとはどういうことかというと,綺麗にして所定の回収に出すことである。こうした市民レベルの協力に欠かせないのは,回収されたペットボトルがどのように再資源化されているのかを企業がわかりやすく説明し,課題があればきちんと消費者に伝えることである。そして今後は,再資源化の経費負担の議論も必要である。


<ペットボトルリサイクルの実際は>

 上の画像は,20191015日,甚大な被害をもたらした台風19号が去った翌日,千葉県・椎津川南水路で撮影したものである。雨で上流の町から洗い流されてきたと思われるペットボトルが河口の干潟岸に大量に流れ着いていた。環境省が2019年度におこなった調査では,海岸漂着物の人工物の多くがプラスチック製品でその中の飲料用ボトルは約28%とされている(*1)。こうして自然界に流出するペットボトル(*2)は,日本では製品のごく一部と考えられるが,それでもこうした情景が繰り返し見られることから,膨大な量のペットボトルが消費されているということがわかる。ちなみに2020年度の日本のペットボトル出荷本数は217億本であった(*3)1995年,容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(いわゆる,容器包装リサイクル法)が成立して以来,資源回収の優等生とされるペットボトル。それでも再資源化には課題も積み残されている。
 使用済みペットボトルのリサイクル方法としては,メカニカルリサイクル(マテリアルリサイクルともいう),ケミカルリサイクルや,最近注目されているバイオリサイクル(*4)がある。メカニカルリサイクルは再生を繰り返すと着色や劣化がおこる。ケミカルリサイクルとバイオリサイクルはともにコストがかかるが,分解して樹脂に戻すため新品と同品質の製品にすることができる。
 ペットボトルリサイクル推進協議会の2021年度の報告書を見ると(*3)2020年度の回収料はキャップやラベルに異物を含んだ量で63.7万トン,このうち指定PETボトル(*5)の販売量は55.1万トン。その内訳は,海外に回った分が14.4万トン,可燃ごみ,不燃ごみ,残渣として熱回収等の焼却や埋め立てた分が1割強の6.3万トン,最終的に国内で再生樹脂化されたのは34.4万トンであった。
 さらに再樹脂化34.4万トンのうち,もう一度ペットボトルに生まれ変わるのは8.6万トン(指定PETボトルの販売量の約15.6%),残りは食品トレイ,衣類,作業・建築資材,園芸用品など,いずれは焼却される製品ばかりといえる。そして,そのほとんどが劣化や摩耗すればマイクロプラスチックとして自然界に流出する可能性の高い製品である。

<使用済みペットボトルのより良い資源化に向けて>

 ボトルをボトルに再生利用する「Bottle to Bottle」を推進するため,企業間連携によるペットボトルリサイクル網が始まっている。2020年度,販売量に対するボトルからボトルへの比率は15.7%だが,PETボトルリサイクル推進協議会は2030年度までにこの数値を50%にすることを目指している(*3)。ペットボトルを繰り返しペットボトルとして使い,ガラスの酒ビンと同じように使いまわせるようになるかもしれない。
 使用済みペットボトルを新品ボトルとして再循環し続けることができれば,石油由来の樹脂利用を大幅に削減できる。さらに再利用する資源化は,石油由来の樹脂に比べ,二酸化炭素排出を大幅に減らせると見込まれている(例えば,2022318日,日本経済新聞)。ボトルをボトルに再生循環させることの良い点には,プラスチックの自然界への流出量を減らせる可能性があるということもある。プラスチック製品を管理下に置き,極力自然界に流出させないということが押さえておきたい点だ。
 使用済みペットボトルの回収方法は大きく二通りある。家庭からの「自治体回収」と,駅のごみ箱や自販機脇の回収ボックスなどを利用した「事業者回収」である。事業者回収に含まれる方法として,飲料メーカー等がチェーン店や大型スーパーなどと取り組む「店舗回収」も進められている。

|自治体回収|

 ごみが混ざらない綺麗なボトルが多く回収できるので資源化しやすい一方,再利用先を指定できない(*6)。そのため多くがメカニカルリサイクルに回される。

|事業者回収|

 ペットボトルに飲み残し,農薬などの別の液体やタバコの吸い殻が入っていたりするため,混入物があるボトルは人手によって廃棄されている。汚れたペットボトルが装置に入ると綺麗なボトルに汚染が広がり,資源化できないためである。異物混入したペットボトルの多くは焼却される。これらをひとつずつ洗って資源化するのは効率が悪くコストがかかるためである(*7)

|店舗回収|

 店舗回収は不純物が少ないボトルを集めやすい。こうした回収に協力する消費者の多くは環境意識が高く,理解して協力するためと考えられる。また,消費者にはポイントがもらえる店舗があったり,回収日に縛られずにいつでも出せる利点がある。場所を提供する店舗は序で消費や,環境意識をアピールして差別化による集客も望める。

<ペットボトルリサイクルにかかる経費を誰が負担するのか?>

 将来,石油資源の消費量が減って原油価格が高止まりすれば,当然,プラスチックの原料となるナフサ(粗製ガソリン)の価格も高いまま維持される。そのため品質を保持するために配合する石油由来の素材の価格が上昇すると考えられる。また,近年では,原油高などから再生樹脂の調達価格が高騰し争奪戦になっている(2022816日,日本経済新聞)。石油由来の樹脂の価格は不安定で今後も高値基調が予想され,使用済みペットボトルの安定調達の流れを確立することが重要になる。
 今後は,ケミカルリサイクルの推進,バイオマスプラスチック(*8)の素材の配合,あるいはペットボトルそのものをバイオマスプラスチックに切り替えていくことも視野に入ってくる。今のところ,政府は一定程度の資金協力するものの,税金投入で大幅に底支えするということはないだろう。そうなると企業・事業者への負担が増すことになる。ペットボトル製造から再資源化に関わる様々な工程でコストの上昇が生じたときに,製造者だけでなく再生のための中間処理などの経費負担が増加することは容易に想定できる。それは製品価格に転嫁せざるを得ない。
 だとしても,製品価格が高くなるならペットボトルはやめましょう,というわけにはいかない。ペットボトルはいくつもの有用性を持つ製品である。素材組成が複雑でないため,多層構造の容器包装よりも再資源化がしやすい。密封性が高く,軽くて,耐圧加工ができ,災害への備えとしての長期保存性を持ち,いざという時には水筒の代わりにもなる。
 それではこの経費負担をどのように進めて,ペットボトルを使っていけばいいのだろうか。それには主に企業・事業者のやること,消費者のやること,国行政のやることがある。大きな流れはプラスチック資源循環促進法にあるが(*9),ここでは大切な点を挙げておきたい。

|企業・事業者

 再資源化の流れをきちんと見せる努力が求められる。資源化を大幅に進めるとはいっても,施設更新などはすぐにできるわけではない。目を惹く成果や数値目標を示すだけでなく,進捗状況や課題を市民に明示することが大切だ。また消費者が応分なコスト負担をするためには,価格内容の透明化が必要だ。例えば,自然エネルギーを導入したことによるコストの増加分が見えれば説得力が増す。誠実に発信していくことが消費者の協力を得る手段になる。

|消費者

 これまで述べてきたように,異物を混入させないなど綺麗な状態にして,決められた分別を守り,適切な回収を心がけることである。異物混入があれば,再生資源としての寿命は終わってしまう。マナーが良ければ,選別に人や機械を増やしたり,施設を増設する必要がなくなり,それは価格を抑える方向に働く。逆にマナーが悪ければそれが価格に反映することになる。

|国行政

 様々なセクターを俯瞰的にみて,細かく目配せし,例えば個別収集など,必要なところに資金援助を行い,効果を見てきめ細かく見直すことが大切。そのためには高精度のモニタリングをしてその情報を更新・公開することや,意見交換の場を作り,成果だけでなく課題についても市民を含め幅広く情報収集し,課題を共有する仲介役としての役割も必要だ。

 海洋汚染の防止や地球温暖化ガスの削減の実現にプラスチックの再資源化は今後も取り組み続けなければならないテーマである。今後,ペットボトルの再資源化には,企業の技術進歩や透明な情報の発信,資金調達,そして消費者の意識のさらなる向上と協力,それぞれを強化しなければならない。ペットボトルはほかの複合的な製品に比べれば再資源化が容易という特性はあるものの,再資源化に関連する一連の過程が他のプラスチック製品の抱える再資源化問題の解決への糸口になる可能性はある。

(文責:野村英明)


*注

  1. 環境省「令和元年度海洋ごみ調査の結果について」
     https://www.env.go.jp/content/900517319.pdf (20210331閲覧)

  2. ペットボトル: ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)製のボトルで,ポリエチレンテレフタレートの略称PETから一般にPETボトルをカタカナ読みにしている。
     1967年に米国・デュポン社がPETボトルの成形技術を確立。日本では,1977年,(株)吉野工業所(東京都江東区)がPET樹脂による醤油ボトルの生産を開始。同年,キッコーマン(株)が500ml醤油をPETボトルで販売(翌年には1LPETボトルに容器を変更)。19822月,食品衛生法が改正されて清涼飲料用にペットボトル使用が認められた。
     容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律成立時,PETボトルの種類が醤油と飲料だったことに違和感を感じた人もいるかもしれないが,元々ペットボトル製品の最初が醤油用のボトルから始まったという歴史的経緯がある。
     詳しくは,下記のホームページを参照。
    PETボトルリサイクル推進協議会
     https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2002/p17.html2022930日閲覧)
    (株)吉野工業所:
     http://www.yoshinokogyosho.co.jp/P2.html 2022610日閲覧)
    キッコーマンの歩み(1964-1979):
     https://www.kikkoman.com/jp/corporate/about/history/02.html2022610日閲覧)
     なお,日本では早い時期から業界が足並みをそろえて色付きペットボトルを使わないようにした。そのことでボトルの資源化は前進したのである。製品の設計段階でリサイクルをしやすいものにするという,20224月に交付されたプラスチック資源循環促進法を部分的に先取りした発想だった。

  3. PETボトルリサイクル推進協議会(2021):PETボトルリサイクル年次報告書2021
     https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/new.pdf?211124 (20220329閲覧)

  4. PETのバイオリサイクルに関する研究については以下を参照。
    DeFrancesco, L (2020): Closing the recycling circle. Nature Biotechnology, 38, 665-668.

    Tournier V, CM Topham, A Gilles, B David, C Folgoas, E Moya-Leclair, E Kamionka, M-L Desrousseaux, H Texier, S Gavalda, M Cot, E Guemard, M Dalibey, J Nomme, G Cioci, S Barbe, M Chateau, I André, S Duquesne & A Marty (2020): An engineered PET depolymerase to break down and recycle plastic bottles. Nature, 580 (7802), 216-219.

    Yoshida S, K Hiraga, T Takehana, I Taniguchi, H Yamaji, Y Maeda, K Toyohara, K Miyamoto, Y Kimura & K Oda (2016): A bacterium that degrades and assimilates poly(ethylene terephthalate). Science, 351(6278), 1196-1199.

  5. 指定PETボトル: 国は使用済みPETボトル単独のリサイクルに支障のない内容物を充填したPETボトルを指定表示製品「指定PETボトル」として指定している。
     容器包装リサイクル法により,原則として使用済み指定PETボトルは「単独のリサイクル品目」としてリサイクルされる。なお,PET樹脂を使用したボトルであっても,指定PETボトル以外のものはその他プラスチック製容器包装に区分されている。
     https://www.petbottle-rec.gr.jp/more/specify_pet.html 2022105日閲覧)
     同じPET樹脂製の製品でも,二つの回収経路を持つことは消費者にはわかりづらい。こうした個別の案件を整理していくことも,再資源化推進の重要な視点だ。

  6. 自治体で回収するペットボトルは容器包装リサイクル法で自治体が収集した後,入札によってリサイクル事業者に引き取られる。したがって,落札単価で引き取り事業者が決まるので,必ずしも飲料メーカーに再生ペットボトルを提供するリサイクル業者が落札できるわけではない。

  7. 参考: 「プラスチック資源循環促進法」で変わるプラスチックごみの回収
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2022/02/post-40.html

  8. 環境と持続性を考える:「バイオプラスチック」とは
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2021/02/post-18.html
     ただし,バイオマスプラスチックも原料によっては,サトウキビやトウモロコシのように,食料やバイオエタノールとの競合があることを忘れてはいけない。

  9. 20224月から動き出す「プラスチック資源循環促進法」はどんな法律
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2022/02/20224.html
    プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案の閣議決定について
     https://www.env.go.jp/press/109195.html (202139日閲覧)