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2021.09.01

環境と持続性を考える -4-:国外の情勢 (3) 「地球環境サミット」から「ミレニアム開発目標」「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」

 ここまで見てきたように世界では様々な環境問題が起こっていたが,それらに対応するための国際的なルールの主要なもののいくつかは1990年前後に取り決められた。例えばフロンガス規制がある(*1)。また,1980年代から欧州で発生した廃棄物がアフリカ諸国に輸送されて環境汚染が生じ拡大したことから,OECDとUNEPによって1989年にスイスで「バーゼル条約」(*2)が提出され,1992年に発効した。海に流出した原油が生態系に及ぼす影響は長年問題となっていたことについては,タンカーからの度重なる油流出事故を教訓に,1992年,「マルポール条約」(*3)が改正されタンカーの船体強化が義務付けられた。

1989年,冷戦終結と経済基調の変質

 こうした協調行動に作用したであろう心理的要因として,1989年,ベルリンの壁が崩壊して米ソ冷戦が終結に向かったことがあげられる。大国間の緊張が解け,世界が一つにまとまっていくという新世界秩序への期待が人々に希望を与えた。東西ドイツの壁が取り払われた高揚感は国際社会に協調体制への期待に波及し,そのことで悪化を危惧されていた地球環境問題の解決に向けて国家が合意形成するためのテーブルに向かい合うことにつながったと考えられる。

 一方で,冷戦が終わることでもう一つの大きな流れが生じた。「経済的豊かさを求めることが,"イデオロギーの違いに関係なく",世界で共通する目的になった」ことである。このことは,それまで抑制されていた物質的豊かさへの希求から,あらゆる国家が経済成長に向かい,自然資本の過度な利用やプラスチックに代表される消費型経済が拡大することを意味する。

1992年,環境と開発に関する国際連合会議「地球環境サミット」

 そうした中で,1992年,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「環境と開発に関する国際連合会議(いわゆる,地球環境サミット)」が開催された。「国連人間環境会議(1972年開催)」から20年の節目に「環境と開発に関する世界委員会(WCED:通称,ブルントラント委員会)」の報告を受けたものである。この時,国家が環境に取り組む際の基本的な方向性が決まった。「持続可能性」という統一的な流れが明確に国際社会におけるメインストリームになったのである。

 会議には国連に加盟しているほぼすべての約180カ国が参加し,100カ国余の元首または首相が参加するという大規模な会議であった(日本は代表団を派遣したが,宮澤喜一首相は参加しなかった)。また,国連の会議というと,一般に開かれた印象ではないが,この会議では,環境技術に関する博覧会や,NGO(非政府組織)など,自治体や市民団体など多様の利害関係者による様々な催しがいろいろな形で大規模に開催されたこともこのサミットの特徴とされている。

 会議では,経済開発が途上であり貧困にあえぐ開発途上国が環境問題に取り組むことは難しいこと,環境問題を最初に引き起こし,拡大させたのは先進国であることから,途上国における開発の権利や技術移転,貧困の撲滅にむけた適切な資金分配などが主張され,先進国との間で考え方に大きな隔たりがあった。議論は紛糾し,それぞれの国家の主張は鋭く対立したが,一方で,環境問題は個別にあるのではなく,必ずどこかで繋がっていて,開発と切り離せないこと,また貧困が開発圧となっていることは,すでに1987年の「我ら共有の未来」(*4)での確認事項(第1章「未来への脅威」)であった。こうしたこれまでの議論の積重ねが多くの重要な成果につながったと考えられる。すなわち,「環境と開発に関するリオ宣言(以下,リオ宣言)」,「アジェンダ21(持続可能な開発のための人類の行動計画)」,「気候変動枠組条約」,「生物多様性保全条約」,「森林原則声明」がそれである(*5)

環境と開発に関するリオ宣言「共通だが差異のある責任」

 リオ宣言は,国際社会が協調して持続可能な開発を実現するための原則であり,1972年の「人間環境宣言」(*6)を拡張して27の原則を定めている。いずれも重要な原則であるが,特記すると,まず第3原則に,将来世代の開発や環境上のニーズにおける公平性の担保が挙げられている。すなわち将来世代への開発余地を残すことに言及している。第8原則で浪費を減らし適切な人口政策を推進するといった生活様式の再考を促し,第11原則では国家ごとに環境法の制定を求めている。そして最も大切な点は,第7原則の,地球の生態系の健全性,保全や修復などに関して,「各国は共通だが差異のある責任を有する」とした点である。

 繰り返しになるが,環境の悪化のきっかけは経済活動の先行する先進国にあり,開発途上国は被害者なのだから,全責任は先進国が負うべきという考えが開発途上国側にはあった。しかし,地球の環境悪化に関して責任を押し付け合っているうちに,状況はますます悪化することは明らかで,先進国はこれまでの経済活動に関して事実は事実と認め責任を持つ一方で,開発途上国も持続可能な開発を実現しつつ環境保全に責任を持つ,つまり「共通だが差異のある責任」をそれぞれに果たすことで合意した。

 リオ宣言を実現するために行動計画「アジェンダ21」が取りまとめられた。アジェンダ21では,大気保全,森林,砂漠化,生物多様性,海洋保護,廃棄物対策などに具体的プログラムを示し,実施のための資金,技術移転,国際機構,国際法の在り方等についても規定した。さらに国別の行動計画(ナショナル・アジェンダ21),地方自治体の行動計画(ローカル・アジェンダ21)の策定を促し,あらゆる主体に参加を呼びかけている。

 「気候変化枠組条約」と「生物多様性条約」が採択されたことも大きな変革である。気候に影響を与える可能性のある温室効果ガス抑制に向けた動きは世界の経済活動に密接する問題である。さらに特筆すべきは,これまであくまでも生態学のテーマと考えられていた生物多様性が,ここにきて経済学の研究課題にまで広がったことは大きな進展といえる。また,これらの問題は,これまでどちらかというと脇に追いやられていた「予防原則」(*7)という考え方を提示している。

2000年,ミレニアム開発目標(MDGs):ミレニアム環境評価と「生態系サービス」

 さて,先述したように冷戦終結以後,グローバル経済の展開が進み,安価な労働力を求め産業が分業化することで,生活水準の格差が国家間あるいは国内においても徐々に顕在化するようになってきていた。そうした中で,ミレニアム・サミットに向けたミレニアム報告書の中では,国際社会が検討すべき多くの課題について,アナン事務総長からいくつかの提案がなされていた(*8)

 これを受けるかたちで,2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットでは「ミレニアム宣言」が採択された。関連して翌年には2015年を達成年とするミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)が発表された(*9)。目標は8つが設定され,飢餓の根絶やジェンダー平等,グローバル・パートナーシップの構築などが挙げられた。

 目標群の中では大きく取り上げられていない環境の持続可能性の確保ではあるが,アナン事務総長の提案の中に地球の健康診断ともいうべき国際的調査「ミレニアム生態系評価」への積極的な支援が求められていた(*10)。地球環境問題としての危機感を国連はミレニアム生態系評価を実施することで示したのであった。

 これまで,環境は経済活動の外側にあり,金銭的価値がつけられない存在であった。そこでこの環境の外部経済的側面を「生態系サービス」の基盤サービスという概念で表現したことは重要である(*11)。すなわち経済活動の基盤として,生態系あるいは環境という自然資本である公共財の存在が健全でなければ,健全な経済活動はできない。にも関わらず経済活動の一部として扱われていなかった環境や生態系に対して,結局のところ,人類の持続的な開発を担保するためには環境や生態系の保全が前提になるということを明確にしたことは特筆すべき点である。

2002年,第2回地球環境サミット「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」

 MDGs策定の翌年,「国連人間環境会議」から30年,「地球環境サミット」から10年後の節目に当たる2002年9月に,アジェンダ21の進捗状況の確認や新たに生じた課題などについて議論を行うため,「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD,ヨハネスブルグ・サミット:第2回地球環境サミット)が開催された。1992年の地球環境サミットでは,地球環境に関心の高い工業先進国と,開発援助をより多く引き出したい開発途上国の両方を「アジェンダ21」として取りまとめた他に,気候変化や生物多様性に関する条約が地球環境保全のプロセスに織り込まれてというように,華々しい成果があった。それに比べれば,第2回目の本サミットは見劣りするかもしれない。本サミットはアメリカの欠席によって不発に終わったとの評価もあった。

 アジェンダ21の評価は厳しいものといえる。第1回地球環境サミット後に,経済のグローバル化が加速したことで,負の影響を被る人々が増えてきた。さらに地球環境は悪化傾向にあって,グローバル経済によってその速度は増しているというのが広い認識だった。そうした中で,アジェンダ21を着実に推進させるために状況を調べ,方策を示すことは大切なことだが,本サミットでアジェンダの実施が進まない原因は明確に示されず,経済のグローバル化に伴う負の影響への対策は議論にならなかった。

 前回のサミットでは持続可能性あるいは持続可能な開発という理念が合意されたものの,それ以後,なかなか国際社会の中で足並みがそろわなかったことは事実である。とはいえ環境と社会の問題を統合的に考えるという先の理念の実現に向けた実施計画が合意に至ったことは,その理念が国際社会に根付いたことを示している。それは政治的意思を示す「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」と,持続可能な開発を進めるための包括的文書「ヨハネスブルグ実施計画」の採択に結実している(*12)。その意味においてヨハネスブルグでの地球環境サミットを否定的に捉えることは正しい評価とは言えない。そして,ここでの反省,すなわち理念が国際社会で円滑に展開しない理由や,グローバル経済の加速への懸念がその後の「持続可能な開発目標群」につながっていったのである。

(文責:野村英明)

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注*)

  1. 「環境と持続性を考える -3-:国外の情勢2 「2000年の地球に関する大統領への報告書」から「持続可能な開発」へ」参照
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2021/01/--3-22000.html
  2. バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関するバーゼル条約): 2019年,第14回締約国会議において,規制対象物質に「汚れたプラスチックごみ」を追加。この改正によって,プラスチックごみを資源としての輸出入していた中に含まれる多くの廃プラスチックに規制をかけることで,これまで受け皿になっていた開発途上国での環境汚染を防止することを目指した。
  3. マルポール条約(船舶汚染防止国際条約:1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書): マルポール条約により,船舶からのプラスチックごみに対する対策に関して,排出は一切認められていない。船舶から発生するプラスチックごみに対処するために,国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会で附属書Vの実施に関するガイドラインが2017年に採択されている。また,2018年10月,IMOは第73回海洋環境保護委員会で「船舶からの海洋プラスチックゴミ問題に対処するための行動計画」を策定し,プラスチックゴミの海洋投棄により厳しく対応していくこととした。
     国土交通省仮訳:マルポール条約附属書V実施のためのガイドライン(2017年)
     https://www.mlit.go.jp/common/001312166.pdf (2020/10/30閲覧)
     国土交通省仮訳:船舶からの海洋プラスチックゴミ問題に対処するための行動計画
     https://www.mlit.go.jp/common/001312165.pdf (2020/10/30閲覧)
     「環境と持続性を考える -2-:国外の情勢1 「人間環境宣言」と「成長の限界」」参照。
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2020/11/--2-1.html
     なお,多くのプラスチックが含まれる海洋ゴミによる損出に関して,アジア太平洋経済協力(APEC)は2016年の値として海運,観光等の業界で年間12.6億ドルと試算している。
     https://www.apec.org/Press/News-Releases/2016/0510_OFWG (2021/06/29閲覧)
  4. 我ら共有の未来: 「環境と持続性を考える -3-:国外の情勢2 「2000年の地球に関する大統領への報告書」から「持続可能な開発」へ」の注7「ブルントラント委員会」参照。
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2021/01/--3-22000.html
  5. 環境と開発に関するリオ宣言: 「環境省」和訳。
     https://www.env.go.jp/council/21kankyo-k/y210-02/ref_05_1.pdf (2021/6/15閲覧)
     なお,日本はリオ宣言を受け,1993年に環境基本法を,1996年からは容器包装リサイクル法,循環型社会形成推進基本法など,環境六法を制定した。

    アジェンダ21(持続可能な開発のための人類の行動計画): アジェンダ21は第1章序言に続いて,社会的・経済的側面(7章),開発に関する資源の保全と管理(14章),主要グループの役割の強化(10章),履行の意味(8章)の4節40章でなる。アジェンダ21の序言では以下のように述べられている。「人類は歴史の決定的な瞬間に立っている。私たちは,国家間および国家内の格差の永続化,貧困,飢餓,不健康な状態,非識字の状態,そして私たちの幸福のために依存している生態系の継続的な低下に直面している。しかしながら,環境と開発との関係の調和やそれらへのより大きな配慮は,基本的需要の充実,すべての人々の生活水準の向上,生態系のより良い保護と管理,より安全でより裕福な将来に導くことになる。これを自国のみで達成できる国はないが,我々が一緒になれば,全世界のパートナーシップで,持続可能な開発を成し遂げることができる。」(筆者訳)
    原文: https://sustainabledevelopment.un.org/content/documents/Agenda21.pdf (2021/06/25閲覧)

    気候変動に関する国連枠組条約(気候変動枠組条約:United Nations Framework Convention on Climate Change)(ここでは日本国内での通称の気候変動を使うが,正しくは気候変動ではなく気候変化): 大気中の温室効果ガスの濃度上昇を止めて安定な状態にすることで,地球の温暖化を防止するための取組の枠組みを確立するための条約。特に先進国等は二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990年代の終わりまでにレベルダウンするための政策や措置を講ずることや,その進捗状況や達成見積もりを締約国会議で評価することとされた。
     「環境省」和訳: https://www.env.go.jp/earth/cop3/kaigi/jouyaku.html (2021/6/23閲覧)

    生物学的多様性に関する条約(生物多様性条約:Convention on Biological Diversity): この条約は,多様な生態系,生物種,遺伝子の異なる3つのレベルの多様性を保全することで,生物資源の持続的な利用を可能にし,ここがポイントだが,遺伝子資源から得られる利益の公平な配分を目的としていることである。この条約が結実するまでの過程では,知的所有権やバイオテクノロジーなどの技術移転や権利について激しい議論が交わされた。
     「環境省自然環境局生物多様性センター」和訳: http://www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html (2021/06/24閲覧)

    森林原則声明(全ての種類の森林の経営,保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明:Forest Principles): 条約にまで結びつかなかったためかあまり知られていないが,森林の経営,保全などに関して,森林の持続的な経営を行うことの重要性を表明し,世界で初めて国際社会として森林の持続性の大切さを確認した合意事項である。
     「持続可能な森林フォーラム」和訳: http://jsfmf.net/chikyu/chi3/unced/uncedforestprinciple.html (2021/6/23閲覧)
  6. 「環境と持続性を考える -2-:国外の情勢1 「人間環境宣言」と「成長の限界」」参照
     https://fsi-mp.aori.u-tokyo.ac.jp/2020/11/--2-1.html
  7. 予防原則: 1992年の「環境と開発に関するリオ宣言」の第15原則は,「深刻なまたは回復不可能な損害のおそれがある場合には,科学的な確実性が十分にないことをもって,環境の悪化を未然に防止するための費用対効果の高い措置を延期する理由としてはならない」としている。
  8. コフィー・アナン国連事務総長「ミレニアム報告書」主な提案
     https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/1434/
  9. ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)の8つの目標: 1)極度の貧困と飢餓の撲滅,2)初等教育の完全普及の達成,3)ジェンダー平等推進と女性の地位向上,4)乳幼児死亡率の削減,5)妊産婦の健康の改善,6)HIV/エイズ,マラリア,その他の疾病の蔓延の防止,7)環境の持続可能性確保,8)開発のためのグローバルなパートナーシップの推進。2001年に策定された。
     国際連合広報センター和訳:  https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/global_action/mdgs/(2021/1/9閲覧)
     ミレニアム宣言
     外務省仮訳: https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/kiroku/s_mori/arc_00/m_summit/sengen.html (2021/06/25閲覧)
  10. ミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment: MA): MAは,アナン国連事務総長の呼びかけに端を発して実施された。生態系の保全が持続可能な社会および人類の福利にとって大切である。この生態系の変化を科学的に評価する,そしてその評価を各国の政策に反映することを目的に,2001-2005年に国連環境計画(UNEP)が事務局となって行われた。MAの報告書においては生態系の劣化による強い危機感が表明されている。
    国連ミレニアム生態系評価「生態系サービスと人類の将来」(Millennium Ecosystem Assessment編,横浜国立大学21世紀COE翻訳委員会責任翻訳),オーム社,241 pp.,2007年.
  11. 生態系サービス: 経済的に取引をした時に,有形無形にかかわらず,価格価値以外で得られる便益をサービスというと思うが,生態系から人類が得ている様々な利益を「生態系サービス」という言葉で表している。
     生態系サービスには4つの区分がある。一つ目は,生命に必須な元素のバランスのとれた供給(栄養塩循環)や多様な生物の生息場,土壌の形成といった生態系の機能を支える「基盤サービス」。二つ目は,水あるいは食料・木材などの「供給サービス」。三つ目は,森林が水を貯留・蒸散することによる気候変動の緩和や洪水調節,水の浄化といった「調整サービス」。四つ目は,精神的な癒しや芸術のアイデアを生み出したりする「文化的サービス」がある。これらは互いに重なる点がある。例えば,瞑想や宗教行事で使用する「香木」は古くから森林で調達されていた。
     なお,生態系サービスのいう「基盤サービス」という考え方は,2000年に経済学者の宇沢弘文が発表した「社会的共通資本」の中の「自然環境」と類似する。宇沢によれば,「社会的共通資本は,一つの国ないし特定の地域に住む全ての人々が,ゆたかな経済生活を営み,すぐれた文化を展開し,人間的に魅力ある社会を持続的,安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。社会的共通資本は,一人一人の人間的尊厳を守り,魂の自立を支え,市民の基本的権利を最大限に維持するために,不可欠な役割を果たすものである。社会的共通資本はたとえ私有ないしは私的管理が認められているような希少資源から構成されていたとしても,社会全体にとって共通の財産として,社会的な基準に従って管理・運営される。社会的共通資本はこのように,純粋な意味における私的な資本ないしは希少資源と対置されるが,その具体的な構成は先験的あるいは論理的基準に従って決められるものではなく,あくまでも,それぞれの国ないし地域の自然的・歴史的・文化的・社会的・経済的・技術的諸要因に依存して,政治的なプロセスを経て決められるものである。」。また,「生態系サービス」を野村(2011)は,自然資本として言及し,大きな意味で生態系サービスをより広く捉えた概念として「自然の恵み」という言葉を用いている。
    宇沢弘文(2000):社会的共通資本. 岩波書店,239 pp.
    野村英明(2011):第5章東京湾を再生するために. 「東京湾:人と自然のかかわりの再生(東京湾海洋環境研究委員会編)」,恒星社厚生閣,251-297.
  12. 持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言
     外務省仮訳: https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/wssd/sengen.html (2021/06/30閲覧)
     持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画
     外務省和文仮訳: https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/wssd/pdfs/wssd_sjk.pdf (2021/06/30閲覧)
    ヨハネスブルク・サミットからの発信:「持続可能な開発」を目指して-アジェンダ21完全実施への約束(編集協力環境省地球環境局),エネルギージャーナル社,329 pp., 2003年.