Research研究内容

ACT I. 海洋プラスチックごみ問題に対する科学的知見充実
テーマ1. 海洋マイクロプラスチックに関わる実態把握

1-1.海面から海底泥まで海洋空間でのマイクロプラスチックの動きを追跡・調査する

海面から海底泥まで海洋空間でのマイクロプラスチックの動きを追跡・調査する

水中のマイクロプラスチック(MP)が少ないとされているのは,プラスチック片の表面に藻類や細菌が付着して重くなって沈んだり,動物プランクトンや小魚などの生き物が食べて,糞の粒子として沈んでいくことが可能性として考えられます。

そこでMPが多く分布するとされる日本周辺でも比較的多いとされる日本海対馬周辺海域で2020年夏に観測を行いました。海表層では微小な生物の採集に使うニューストンネット(網目315 µm)を,海底の堆積物からは採泥器を用いてプラスチック粒子を採取しました。長崎・対馬周辺海域の試料におけるMPとそれよりも大きなプラスチック(メソプラスチックという)で比較すると,西側海域でMPの重量,個数が多く分布し,また,東側海域のMPで劣化している傾向が見られました(図1-1-1)。

図1-1-1:対馬周辺海域に浮遊するマイクロプラスチックと5mmより大きいプラスチック片(メソプラスチック)の分布.図は測点ごとの立方メートルあたりの数(左右で個数のスケールが違うことに注意).測点B009は観測時に潮目に当たっていた.MPの1立方メートルあたりの平均個数は2.74個(0.25-14.4),メソプラスチックは0.40(0.014-1.57).

水中や海底にあるMPを素材について比べると,水中でポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)のように海水より比重の軽い素材が採取され,堆積物中からはPEPPに加えポリ塩化ビニル(PVC)やポリカーボネイト(PC)といった比重の重いMPが採取されました。比重の重いMPは軽いMPと水中で異なる動きをしているようです(図1-1-2)。

図1-1-2:対馬周辺海域に浮遊するMPと海底に沈んだ堆積物中のMPの材質構成.

MPは主に300µmを下限に調査されることが多いですが,より小さいMPがどうなっているのかを調べるための方法として,10-300 µmMPを海水から集める技術の開発に成功しました。今後は,海中にある微小なMPが海水から取り除かれるメカニズムにも焦点を当てて研究を進めていきます。

さて,水中のMPは単独で移動するばかりではありません。むしろマリンスノーのような何かにくっついて移動していることの方が多いと考えられます。水中には様々な大きさで様々な性質の物質が粒子として存在します。植物プランクトンは細胞外に透明な重合体粒子(TEP)を放出し,それが様々な粒子を取り込んだ凝集物になっていきます(図1-1-3)。そうした凝集物にMPが付着して沈降することが考えられます。そこで室内実験を行なったところ,小さいMPほど凝集物と一緒に沈んでいきやすく,1 mm以上の大きいMPでは付着が逆に凝集物に浮力を与える現象を観察しました(図1-1-4)。この様に植物プランクトンがMPの動きに大きく関わることや,MPが沈降粒子の性質に変化を与えることで地球海洋における物質循環(特に炭素循環)にも関わっている可能性が出てきました。

図1-1-3:海洋中のマイクロプラスチックと天然有機物の相互関係(イメージ).
図1-1-4:植物プランクトンの凝集物に付着するビーズの観察(上は実体顕微鏡に蛍光装置を用いた画像,下は走査型電子顕微鏡の画像).