Research研究内容

ACT I. 海洋プラスチックごみ問題に対する科学的知見充実
テーマ1. 海洋マイクロプラスチックに関わる実態把握

1-2.マイクロプラスチックの動きを現場データと数値実験モデルによって明らかにする

マイクロプラスチックの動きを現場データと数値実験モデルによって明らかにする

海の様子は刻々と変化します。風や波による撹乱,雨による塩分変化などがあり,マイクロプラスチック(MP)は水中で混ぜ返されたり劣化したりします。MPの大きさや形,表面のツルツル度合いなどが異なれば,同じ力が働いても浮き沈みの様子が変化します。そのことで生物への取り込みや環境中での有様が変わります。そこで,大きさや密度の異なるMPがどのように水中で動くのかを数値実験で明らかにしていきます。

 

材質の異なるMP(ポリエチレンPEとポリプロピレンPP)が海中でどのような振る舞いをするのか,そして鉛直的な分布がMPの粒子サイズによってどのように変わるかをコンピューター上の数値実験で調べました。PEPPとも海水よりも軽いため,基本的には浮力があり,海面付近に滞留しますが, 冬季は水温や塩分による成層が弱く鉛直的に混合しやすいため,かなり深い水深まで輸送されることが数値実験から示されました。また,浮力のあるMP でも,生物が付着したりすると海水よりも重くなり沈む可能性があります。

 

そこで,数値実験によって,生物由来の有機物と凝集する確率を計算した結果,小さい粒径のMPでは静穏時に表層に集まるために凝集確率が増大するのに対し,大きい粒径のMPでは荒天時にラングミュア循環と呼ばれる組織だった表層の流れによって凝集確率が大きくなることがわかりました。また,粒径ごとの紫外線暴露量を計算した結果,320µm付近を境にそれより小さい粒径のMPでは紫外線を浴びる量が減少し,分解されにくくなることが数値実験の結果から示されました。

 

さらに,現場観測で対馬周辺海域では東西海域でMPの劣化度合いが異なり,東側海域で分解が進んでいる傾向が観察されましたが,このことについて数値実験を行なったところ,東側のMPの方が輸送経過日数が多いこと,対馬の海岸で分解が進んだMPが再流出した際にも対馬の東岸に存在しやすいことがわかってきました。

図1-2-1:数値実験で計算された3次元的なマイクロプラスチックの分布.色はMPの粒径を示す.