Research研究内容

ACT I. 海洋プラスチックごみ問題に対する科学的知見充実
テーマ2. マイクロプラスチック生体影響評価

2-1.陸域から海域へのマイクロプラスチックの流出過程とMPに起因する化学的物理的生体影響

陸域から海域へのマイクロプラスチックの流出過程とMPに起因する化学的物理的生体影響

300µmより小さいサイズのマイクロプラスチック(MP)について,都市発生源から追跡した結果,プラスチックは陸域で微細化して海域に達していました。その経路の一つは,家庭での洗濯に由来する化学繊維(繊維状MP)が下水を介して海に流れ出ます。晴天時であれば下水処理で98%は取り除かれますが,それでもその処理水中の濃度は粒子毒性の閾値を超えていました。別の経路としては,タイヤ摩耗物やプラスチック製品が粉砕してMPになって道路わきの排水溝から道路排水として,特に雨天時の出水で海に吐き出されます(図2-1-1, Sugiura et al, 2021)。流出したMPは都市内湾に沈降・堆積しており,東京湾の海底堆積物の調査から,1960年代以降に蓄積していることが明らかになりました(図2-1-2, Takada et al, 2022)。

図2-1-1:都市で発生したプラスチックの海への経路.道路排水(Road Runoff),降雨時の越流水(CSO),下水処理場(STPs)からの二次処理下水(Secondary Effluents)の3つの経路が示されている.
図2-1-2:東京湾の海底から採取した柱状堆積物中のマイクロプラスチックの鉛直分布.堆積物中のMPの個数が示すMP汚染の歴史変遷.

10~300µmの微小なMPの生物による取り込みを調べたところ,東京都多摩川河口域ではハゼ,オサガニ,アサリ,ホンビノスガイなどで体内に蓄積していることがわかりました(図2-1-3,図2-1-4)。同じように沖縄県でもイソハマグリやオカヤドカリで確認されました。生物組織内の微小なMPを測定する方法を開発し,岩手県気仙沼の漁港と東京湾湾岸のイガイで調べたところ,気仙沼のイガイでポリスチレン(PS)を有意に検出しました。漁業活動で多用される発泡スチロールに由来する可能性が考えられます。

図2-1-3:市民と協働した多摩川河口でのマイクロプラスチック調査のための底生生物採取.生物試料採取協力「大田区環境マイスターの会」.
図2-1-4:多摩川河口域生物の体内からは目で見えない小さいマイクロプラスチックを検出.

沖縄県西表島でプラスチックの漂着の多いノバルザキ西とほとんどないハエミダの2ヶ所の浜で採取したオカヤドカリの肝膵臓中の臭素系難燃剤含有量を調査したところ,ノバルザキ西の試料からは高濃度のBDE209とその代謝物のPBDEsを検出しました。ところがハエミダからはほとんど検出されませんでした。そこで実験室でオカヤドカリにBDE209を経口曝露したところ,数日後には肝膵臓からBDE209とその代謝物のPBDEsが検出された(図2-1-5)。

図2-1-5:プラスチック製品の添加剤で臭素系の難燃剤BDE209をヤドカリの肝膵臓から検出.

BDE209は代謝の過程で臭素が外れることで毒性が増すことから,プラスチック自体が含んでいる添加剤が,生物体内に移行・蓄積するだけでなく,代謝による有害化が起こることが確認され,添加剤の体内移行後の影響を今まで以上に注視する必要があることが示されました。