Research研究内容

ACT I. 海洋プラスチックごみ問題に対する科学的知見充実
テーマ2. マイクロプラスチック生体影響評価

2-2.食物連鎖の中でのプラスチック関連物質の挙動,遺伝子応答

食物連鎖の中でのプラスチック関連物質の挙動,遺伝子応答

日本沿岸に広く分布するムラサキイガイを使ってマイクロプラスチック(MP)の取り込みを調べる実験系を確立しました(図2-2-12-2-2)。

図2-2-1:マイクロプラスチックを取り込むムラサキイガイ.上がMP投入したところ,下が取り込んだ後.(Fisheries Science, 87, 761, 2021)
図2-2-2:排泄された糞の中のMP.(撮影者 金城梓氏)

この実験系を用いて,MPを模してPS製のビーズ粒子を与えたところ,粒子のサイズによって体内残留時間などが異なることが判明しました(図2-2-3)。すなわち,直径1,10,90µmの粒子を取り込ませ,その排出を40日間調べると,90µmの粒子は,平均残留時間は長いものの最終的にすべて排出されるのに対し,1µmの粒子は,平均残留時間は短いものの少数の粒子が体内に長期間残存し続けることがわかりました。さらに,ムラサキイガイにPE単体とPE製のビーズにPCBを吸着させた粒子をそれぞれ与えて,現在遺伝子解析を行なっています。この解析により,MPが海洋生物に及ぼす未知の影響が明らかになりつつあります。

研究対象は魚類にも拡げています。海水魚のモデルであるジャワメダカ(図2-2-4)を使った実験から,濾過摂餌をしない魚種でも粒子を取り込み,淡水中よりも海水中で取り込みがより活発であることがわかってきました(図2-2-5)。今後ジャワメダカを用いて,MPがどのような影響を及ぼすのかを遺伝子レベルで調べていきます。そのために必要な全ゲノム配列の解読や,遺伝子ノックアウト技術の確立もすでに完了しています。

図2-2-3:MPモデル粒子のサイズごとの排泄量と時間の関係.(Marine Pollution Bulletin, 149, 110512, 2019)
図2-2-4:モデル生物のジャワメダカ.
図2-2-5:海水中でマイクロプラスチック粒子を取り込んだジャワメダカ稚魚(撮影者 Hilda Mardiana Pratiwi)